発足1年、高市政権の行方
第1次高市内閣の発足から10月21日で1年になる。今年2月の衆院選で圧勝し、衆院では非常に強い政権基盤を築いた。インターネット上の人気に支えられ、比較的高い水準の内閣支持率を誇っている。一方、参院では少数与党の状況が続き、過半数までほんのわずかだが、政権運営には時に危うさものぞくというのが現状だ。
孤独な宰相
政権基盤の中身を見ると、自民党は衆院で316議席を単独で持っている。衆院定数は465だから、3分の2を超える圧倒的な勢力だ。参院で否決された法案について、衆院で再可決して成立させることが可能だ。連立を組む日本維新の会は衆院36議席。衆院では維新の助けがなくても自民単独でいかようにもできる状況だ。
ところが、参院では自民101、維新19にとどまる。参院の定数は248だが、欠員が1人出ている。欠員1を除く247の過半数124に4議席届かない。たった4議席だが政局の「肝」になっていて、参院では法案審議が立ち行かなくなる可能性がある。そのため、高市早苗首相は少数政党の取り込みに走っている。
自民党内の状況を見ると、首相は清和会(旧安倍派)の出身だが、総裁選の対応を巡り派閥を離脱して久しい。一匹狼的な存在で、仲間が少ない。「孤独な宰相」とも言われている。懐刀が不在で、首相ブレーンの筆頭は木原稔官房長官だ。木原氏は平成研究会(旧茂木派)出身だが、保守的な思想信条が首相に近く、頼りにされている。
首相は韓国大統領と一緒にドラムをたたくなど開放的な面がある一方で、非常に生真面目だ。官僚が作った資料を読み込み、ひたすら勉強している。夜の会合は好きではない。勉強しているときに難しい案件を持ち込むと、不機嫌になると聞いた。周囲も気を使い、相談案件を持っていくタイミングを慎重に見計らっているそうだ。木原氏も同様だと聞く。個人的な見方を言えば、細かい部分に目が行くタイプの政治家かもしれない。いわゆるマイクロマネジメントだ。
後ろ盾は麻生元首相
首相の後ろ盾は麻生太郎元首相だ。昨年、首相が当選した自民党総裁選の決選投票で、帰趨を決める動きをした。麻生氏は現在、自民党唯一の派閥である麻生派60人を率いている。決選投票に際して「地方票トップの候補に入れろ」と派内に指示を出し、1回目地方票トップだった高市首相が当選した。麻生、高市両氏はもともと仲が良かったわけではない。決選投票で自分に票を回してくれたので、高市首相は麻生氏に非常に恩義を感じている。人事や政策で一定程度言うことを聞かないといけない。今月の内閣改造・自民党役員人事でも、麻生氏に配慮しなければならない状況にある。
全て麻生氏の言うことを聞いているかというと、そうではない。麻生氏は元財務相で、食料品の消費税率引き下げに反対していた。ただ麻生氏のスタンスは、時の首相の意向には従うということで徹底している。安倍政権で消費税率の引き上げを延期する際、麻生氏は反対だったが結論を受け入れた。高市首相に対しても同じだ。
麻生氏は、野党対策では国民民主党との連携を重視している。ところが首相は維新を重んじる。そうした路線の違いが政権内にある。首相の維新重視は当然だ。公明党が連立を離脱し、高市氏は国会の首相指名選挙で勝てるかどうか分からない状態だった。手を差し伸べてくれたのが維新なので、この上なく大事にしている。
麻生氏が連立拡大に向けて国民民主党に触手を伸ばす一方、維新としては連立パートナーが増えれば存在感低下につながる。そのため、国民民主がのみにくい衆院議員定数削減法案などの難題を突き付けていると推測する向きもある。
先の特別国会では、維新が強く求めた日本国旗損壊罪法や「副首都」構想関連法の成立を首相も後押しした。首相はそもそも日本国旗損壊罪法に前向きだったが、国民民主などから異論の強かった副首都法にも配慮した。衆院定数削減法案は、衆院議長の下に置かれた与野党協議会で選挙制度改革の結論が出なければ、1年後に比例代表45議席を自動削減する乱暴な内容で、野党の猛反発を受け先送りとなった。
ネットの風向きに変化
冒頭で首相のネット人気が高いと話した。2024年の兵庫県知事選や今年2月の衆院選でも指摘された通り、ネット世論が選挙結果まで左右する時代だ。首相は以前からネットの人気者だった。思い切りの良い発言が好感された。また、ウクライナ侵攻やイラン攻撃、東アジア情勢など安全保障環境の変化によって、日本の防衛力強化を求める声が大きくなってきた。そういう中で、首相が時流にうまく乗ったということなのかなと思う。
ただ、昨年の自民党総裁選や今年の衆院選を巡って浮上した中傷動画作成疑惑、首相がSNSで「寝てないアピール」をしたことなどを受け、得意分野だったはずのネットで少し風向きに変化も出てきている。風向きの変化の一つとして、高市政権と国民民主の距離が最近また広がってしまった点も指摘しておきたい。特別国会で6月、衆院定数削減法案と副首都法案の審議入りを与党が委員長職権で決めた。国民民主は強く反発し、それまでの政府、与党への協力姿勢を一変させ、他の野党と歩調を合わせて抵抗路線に転じた。
自民と国民民主は昨年12月、「年収の壁」引き下げに合意した。ただその後、徐々に関係が悪化していた。今年1月に衆院が解散され、不意打ちの選挙で国民民主は横ばいだった。自民が議席を激増させ、それに対するいら立ちというのもあったかもしれないが、26年度予算案の国会審議、社会保障国民会議での消費税論議などを通じて、だんだん冷え込んでいった。特別国会の運営を巡る与党の強硬姿勢が、決定打になった。とはいえ、麻生氏と国民民主は頻繁に接触している。関係が切れたわけではなく、このルートはずっと残るだろう。何かあれば国民民主の協力を仰ぐという伏流が、今後も続いていくはずだ。
骨太ショック
高市政権の課題について触れると、一つは経済政策だ。経済は門外漢なので詳しく語れないが「骨太ショック」というものがあった。6月30日に政府が原案を公表した経済財政政策の基本方針に、日銀の追加利上げを政府が牽制しているような文言が入っていた。01年に小泉政権で骨太の方針策定が始まって以来、初めて「財政健全化」という文言が消え、財政の持続可能性という言葉に置き換えられた。市場は敏感に反応し、日銀の利上げ遅れや財政悪化への懸念、警戒感が強まり、長期金利が2・9%に上がった。30年ぶりの数字だ。さらに9月1日には3%になり、2日は3%を超えた。首相は骨太ショックに衝撃を受けたということだ。高市政権の経済財政運営にはリスクがあると言われている。
秋の臨時国会での最大のテーマになるのが消費税減税だ。国と地方を合わせて2年間で10兆円近い減収が見込まれる中、財源が見えない。2年後に税率を戻すと言っているが、政治的に可能なのか。日本の歴代首相は消費税の導入、税率引き上げを巡って体力を使い果たし、政権が幾つも変わるような状況があった。政治的にかなりナーバスな話だ。
今回の税率引き下げには自民党内でも異論があった。同党税制調査会の「インナー」と呼ばれる非公式幹部会合のメンバーだった小渕優子氏が、7月に辞任した。石破茂前首相、森山裕前幹事長なども異論を唱え、党内対立の火種になっている。
ただ、現行の選挙制度や官邸主導の政策決定システムによって、首相の力はかなり強くなっている。党総裁としては候補者の公認権があるので、自民内の異論は表に出にくい状況だ。反対派の議員が暴れたくても暴れられないけれども、不満はふつふつとたまっていると言っていい。
減税開始から2年後の29年4月に税率を戻すことは困難ではないかという見方もある。税率引き上げの延期を打ち出して28年参院選で信を問うのか、もしかしたら衆参同日選を断行するのではないかという観測も一部にある。
衆院定数削減法案も難題だ。維新の無理筋の要求に対し、野党は強硬に反対している。自民内にも異論がある。もう一つは安保関連3文書の改定だ。自民、維新がそれぞれ提言を出していて、政府に対し、防衛費の大幅増額を求めている。こちらも財源がはっきりしない。増税が必要と判断するのであれば、食料品の消費税率を引き下げるのに、防衛費で増税するというちぐはぐな話になる。安保3文書改定では、非核三原則を見直すかどうかというところも焦点になっている。
稚拙な国会運営
高市政権の「弱点」は何か。一つは国会運営だ。首相は中傷動画作成疑惑に関し、関与を疑われた秘書の陳述書で答弁に代えさせてほしいということを言った。自分や秘書が国会の場で答弁せずに紙で済ませようとする噴飯物の対応で、自民国会対策委員会も困ってしまった。現場のことを知らない経営者が前例を無視した指示を出し、実務担当者が困り果てて右往左往しているという図式だと思う。首相にとって国会は不得意分野だと言えるのではないか。
首相は安倍政権当時の18年、衆院議院運営委員長に就任した。就任してすぐ、国会改革の私案を突然公表して騒ぎになった。時の大島理森衆院議長も寝耳に水で、野党からは「唐突すぎる」と猛反発された。具体的には、各委員会での法案審議の進め方を変更する内容だった。各委員会の審議は、一般質疑と法案審議を交互に行う「サンドイッチ方式」で実施される。高市議運委員長の改革案は、法案が提出された後、法案審議を立て続けに行い、会期末前に残った時間を一般質疑に充てるというアイデアだった。要するに野党が質問する機会を圧縮しようという中身で、野党は「国会の行政監視機能が封印され、政府の下請け機関になってしまう」と危機感を持った。結局、高市私案は撤回に追い込まれた。
政府は時に間違いを犯すから、慎重な審議を通じてきちんとチェックをする。日本の議院内閣制はそういう立て付けになっている。高市首相は、三権分立や議会制民主主義に対する理解が不足しているのではないか。国会での合意形成は丁寧に行うべきであり、手間暇がかかる。迅速な意思決定を重んじる維新と首相の考え方には近いものがあると感じるが、効率一辺倒ではいけない。選挙で勝った勢力が国会も含めて支配するという「勝者総取り」の考え方だと、三権分立とバッティングしてしまう。民主党政権で首相を務めた菅直人氏が閣僚在任中、「議会制民主主義というのは、期限を切ったあるレベルの独裁」とする見解を国会答弁で示し、物議を醸したのを思い出した。
国会には昔から積み重ねられた慣例がある。それを無視して国会を動かすのは困難だ。繰り返しになるが、与党は国会審議を通じて野党の言い分も幅広く聞いた上で、合意形成を図る必要がある。今後も国会運営は首相の弱点であり続けるだろう。
もう一つ、高市政権の弱点は外交だ。表向きは「やってる感」を出しているが、なかなかうまくいっていない。ホルムズ海峡危機に端を発した中東リスクは続き、物価高対策にも影響している。国際刑事裁判所(ICC)の赤根智子所長に対するトランプ米政権の制裁措置もやっかいな問題だ。首相のコメントは当初「大変残念」という弱い言いぶりで、批判が殺到すると慌てて表現を強めた。対中関係は最悪と言っていい。中国の軍事的な動向、海洋進出など相手にも問題はあるが、現在の対立の起点は「存立危機事態」を巡る首相の国会答弁だ。ロシアのプーチン大統領の北方領土訪問に対する日本政府の抗議も「弱腰」と批判されている。政府は5月、ロシアに経済訪問団を派遣するなど関係改善も図っているから、強くは出られないのだろう。北方領土について安倍政権時に「歯舞・色丹の2島返還+α」の方針で進めたが、結局うまくいかなかった。
問われる歴史認識
首相は終戦の日の靖国神社参拝を見送る一方、番記者に見せる形で「遥拝」をした。参拝の持論を封印したが、靖国問題は今後も火種になる可能性がある。一議員時代の1995年、国会で先の戦争に関して、私自身は当事者とは言えない世代なので、反省なんてしていないし、反省を求められるいわれもないと言っている。高市首相の歴史認識も波紋を呼んだ。戦没者追悼式の式辞では、安倍晋三首相が13年の終戦の日から取りやめ、昨年に石破首相が復活させた「反省」「不戦」という言葉を高市首相は使わなかった。
歴代首相は戦没者追悼式の式辞で戦争の惨禍を二度と繰り返さないと言ってきたが「繰り返させない」という言い方に変え、日本は過去の戦争に巻き込まれたというニュアンスを出した。同じ保守派の安倍首相が15年に出した戦後70年談話でさえ、何の罪もない人々に計り知れない損害と苦痛をわが国が与えたと書いた。もともと高市首相は、戦後50年の村山富市首相談話に関し「日本が一方的に悪いことになっている」と強く批判してきたので、そういう歴史認識の持ち主だということは知っていたが、一連の発言は外交の場であつれきを生みかねないのではないか。それも一つのリスクだと思う。広島、長崎原爆の日の式典でも、首相は「非核三原則を堅持しており」という現状説明の言い方で、今後も堅持するとの意思表示はしなかった。
政権の骨格は維持
内閣改造・自民党役員人事が9月中旬に想定されている。消費税減税を含む税制改正大綱が15日に決定されれば、16日にも人事が行われる見通しだ。首相がニューヨークでの国連総会から帰国後の今月下旬という説もあるが、次期臨時国会は10月上旬の召集とみられていて、新しく閣僚になる人の答弁準備期間を考えると、9月下旬では少し遅い気がする。人事の焦点は大きく言うと二つある。一つは幹事長を代えるか。もう一つは小林鷹之政調会長の処遇だ。

第2次高市改造内閣の顔ぶれ=共同
鈴木俊一幹事長は、1月の衆院解散前に首相から何も相談を受けなかったとされる。先の特別国会の運営でも、鈴木氏の動きが良くないとして、首相が不満を持っているという見方があった。幹事長交代説がくすぶっているが、鈴木氏は麻生元首相の義弟だ。もし幹事長を代えれば、麻生氏の機嫌を損ねることになる。自民で唯一存続している派閥である麻生派には衆参60人の固まりがある。来年の総裁選を考えれば、幹事長は留任ではないか。今回は総裁選での再選をにらんだ人事で、首相としても下手なことはできない。木原官房長官を含め、政権の中枢ラインは動かせないと思う。
幹事長人事を巡っては、一部でいろんな説がある。有村治子総務会長や萩生田光一幹事長代行の起用説だ。有村氏は麻生派に所属し、萩生田氏は出身派閥こそ違うものの、麻生氏に近い。どちらを選んでも麻生氏にとって悪くないという見立てだ。ただ有村氏は参院議員で、幹事長に起用するにはイレギュラーな感じがする。萩生田氏は政策の理解度が高く、交渉事も得意とされる。力量を考えれば幹事長説もうなずけるが、派閥裏金事件で役職停止処分を受けた。折しも福岡県議会の金銭授受疑惑が発覚したタイミングなので「裏金議員」の幹事長起用は難しいかもしれない。やはり鈴木幹事長の続投が本線だろう。
総裁選で戦った議員の処遇が注目されており、その筆頭が小林政調会長だ。小林氏は消費税減税や皇室典範改正の取りまとめで非常に活躍したそうだ。ただ、総裁選で首相のライバルになるのは困るという事情があり、重要閣僚に起用するという見方が出ている。その場合は、総裁選に向けた全国行脚を自由にできないようにする「閣内封じ込め」の意味合いがあると思う。経済財政担当相にして消費税減税の国会答弁を担当させるという説もある(小林氏は政調会長続投となった)。人事で刷新感を出す観点から、鈴木英敬、大野敬太郎、塩崎彰久衆院議員ら「チームコバタカ」と言われる政策通の議員を起用するとの見方もある。
総裁選で争ったライバルに話を戻すと、林芳正総務相の処遇が注目される。長年にわたり首相候補と言われながら、65歳になった。衆院議員へのくら替えもうまくいって、総裁選に何度も立候補している。本当はもう無役になって1年間自由に全国を飛び回り、総裁選に向けて力を蓄えたいだろう。首相から閣僚続投と言われた場合、蹴飛ばす勇気があれば見上げたものだ。岸田文雄元首相と同じ宏池会出身だが、岸田氏との関係はあまり良くないと言われている。(林氏は閣僚としての起用が見送られた。)
安保関連3文書の改定があるので、小泉進次郎防衛相は続投すると思う。来年の総裁選では他候補の支援に回り、出馬しないという見方も一部にあるようだが、現時点で確たることは分からない。茂木敏充外相はかなり有能な人で、日米関係などを考えると、英語の使い手でタフネゴシエーターでもあるし、続投と目されている。片山さつき財務相も続投と言われている。
維新が今度こそ入閣するという話になっていて、藤田文武共同代表か馬場伸幸前代表のいずれかが有力とされている。政権発足時、首相は維新に閣僚2枠を打診したが、自民から不満が出る可能性もあるので、今回は1枠にとどまるのではないかとみられている。副首都構想を考えれば、維新としては総務相が望ましいだろうが、非常に重いポストなので自民内に異論が根強くある。(維新からは中司宏前幹事長が入閣した。)
小政党に触手
首相官邸は閣僚候補をリストアップして「身体検査」をしている。参院の過半数に4議席足りないと先ほど申し上げたが、そこをにらんでチームみらいに触手を伸ばそうとしている節がある。身体検査の対象にチームみらいメンバーが入っているようだ。与野党の選挙制度改革論議で、比例削減を警戒する野党に配慮し、自民が新たな比例議席の配分方法を提示した。「サンラグ式」という名称で、比例代表の議席配分を少数政党に有利な形にする方法だ。今のドント式というのは得票数を「1、2、3…」と自然数で割っていくが、サンラグ式は「1、3、5…」と奇数で割っていく。2番目以降の割り数が大きいので、大政党の2議席目、3議席目よりも中小政党の1議席目の方が上に来やすいという方式だ。これを提唱していたのがチームみらいだった。先日には安野貴博党首が、首相に「AI家庭教師」をした。こうした接近が、いかにもきな臭いと言われている。(チームみらいの入閣はなかった。)
先日、横浜市長がパワハラ問題で辞職し、10月18日に市長選が行われる。維新の参院議員が立候補するかもしれないと取り沙汰されている。参院神奈川選挙区の場合、1人の辞職だけでは補欠選挙が行われず欠員になる。市長選に出るため参院議員を辞めてしまうと、与党の参院議席が1減る。細かいがすごく大事なところで、横浜市長選が国政にも影響することになる。1減を補うため、チームみらいの入閣話が出てきたとも語られている。
野党に目を転じると中道改革連合、立憲民主、公明3党の合流協議が頓挫した。首相にとっては万々歳だ。先ほどから政権にはいろいろ弱点があると言ってきたが、野党がバラバラなので大きくは揺らがない。与党にとって非常にありがたい状況だ。野党があまり弱すぎると、国会のチェック機能が低下する恐れがある。それは国民にとって不幸だ。
3党は安全保障法制、原発、米軍普天間飛行場の辺野古移設などの基本政策に大きな違いがあり、結局一つにまとまれなかった。今年の衆院選で惨敗したが、中道は比例で1000万票を得た。自民は2000万票だったので、半分取っているわけだ。議席数では何倍もの差がついているが、得票数でいうと半分だ。この民意はどこに行ってしまうのか。野党がばらばらで大きな固まりができないという状況が、高市政権の独走を許してしまう一番大きな要因になっている。
容易でない憲法改正
重要テーマの憲法改正論議について触れる。首相が4月の自民党大会で「時は来た」と発言し、来年春の党大会までに国会発議のめどをつけたいという意向を示した。国会で一つ大きな動きがあり、5月に衆院憲法審査会で、衆院法制局と衆院憲法審事務局が作った「緊急事態条項のイメージ案」が提示された。それによると、緊急事態の定義を①大規模自然災害②感染症の大規模まん延③内乱・テロによる混乱④外部からの武力攻撃─の四つに分類する。これらが発生したら、国会の事前承認を得て内閣が「選挙困難事態」と認定し、国会議員の任期延長が可能となる。
これに対し、立民などは反対している。国会議員の任期延長ではなく、憲法54条に定める参院の「緊急集会」で対応できるという主張だ。自らの存在基盤に関わる話だから、自民の参院議員からも異論が出た。改憲派の自民内でも、見解が割れている。
自民の改憲を急ぐ人たちは参院の緊急集会について「最大でも70日間しか開けない」と言っている。なぜかというと、憲法54条では衆院解散から40日以内に総選挙をする、選挙から30日以内に特別国会を開くと規定している。40+30で70日しか開けないというのが改憲派の主張だ。これに対し、憲法学者の長谷部恭男早稲田大教授は、40日、30日の規定というのは、従来の政府が居座るのを防ぐための規定だと説明した。選挙をしたのに結果が思わしくないから今の政府を続けますとか、選挙で負けたので野党を含めて多数派工作するために、つまり首相指名選挙で勝つために特別国会を30日以内に召集しないとか、そういう居座りを防ぐための規定なのだと。自民の参院議員も、それに賛同する意見を言った。
憲法9条を巡る考え方も、自民と維新で異なっている。自民は9条1項の戦争放棄と、9条2項の戦力不保持について維持したまま自衛隊を新たに明記すると言っている。一方、維新は9条2項を丸ごと削除して国防軍保持を明記するということで、一致していない。
このように改憲を主張する側の中でも意見が異なっている。最近の世論調査では、改憲すべきだという回答の方が多数だ。国政選挙の時に候補者アンケートを実施し、当選した議員の回答を見ると、大多数が改憲派だ。ところが中身の議論に入っていくと、どんどん枝分かれしていって話がまとまらない。だから、来年春の自民党大会までの国会発議は難易度が極めて高い。憲法改正を政権の実績にしたいのか何か分からないが、国の最高法規は期限を切って議論するようなものではない。国民が「憲法を変えなきゃ夜も昼も来ない」というような、とんでもない熱量のある時でないと改憲は無理だと思う。国会発議は衆参両院総議員の「3分の2以上」の賛成が必要だから、そもそも相当ハードルが高い。国民投票にこぎ着けたとしても、時の政権に対する信任投票の様相になり、政権の評判が悪いと否決されてしまう。改憲という重要なテーマは、政治的な思惑から離れて議論しないと決着しないのではないかというふうに私は思っている。

最後に高市政権の今後について述べる。首相は来年の統一地方選でまず勝利して、9月の自民総裁選で再選を果たしたい。無投票を狙うだろう。28年夏には参院選がある。29年4月から食料品の消費税率を戻すのかどうか。もし税率を戻さない場合は、28年参院選に絡めて審判を仰ぐ可能性がある。衆院選もぶつけて衆参同日選をする可能性も否定できない。普通に考えれば、同日選は回避するだろう。衆院は自民単独で316議席もあるから、わざわざ減らす可能性のある選挙はしないのがオーソドックスだ。ただ「高市は何をするか分からない」と永田町の皆が思っている。首相本人は「なんで解散せなあかんの」と言っているそうだ。衆院解散に関し、われわれは出し抜かれることが多いので、予断は持てない。30年2月には衆院議員の任期満了を迎える。こうした政局カレンダーを念頭に、首相は綿密に戦略を練るはずだ。
(本稿は9月2日に行われた講演内容を要約、一部加筆した)