ご紹介にあずかりました佐藤伸行と申します。ここ十年余りは大学の教員をしておりますが、元々は時事通信の記者です。1985年に入社し、外信部に配属されました。海外での最初の任地、つまり波長を合わせようと努めた社会はヨーロッパのドイツ語圏でした。アメリカに勤務する前、私はドイツのハンブルク、ベルリン、ウィーンで記者として働きました。

宗教の観点から言うと、ヨーロッパはアメリカに比べ、はるかに世俗的な社会です。もちろん、人工妊娠中絶をめぐる対立はありますし、キリスト教の伝統と移民が持ち込むイスラムとの軋轢(あつれき)は続いておりますけれども、宗教的熱情が政治に及ぼす影響という側面から言えば、アメリカの何分の一かというところです。

私がワシントンDCに行っていきなり目にしたのは、キャピトル・ヒル(連邦議会)を包囲するおびただしい人数のデモ隊でした。人工妊娠中絶の禁止を叫ぶ宗教勢力が押し掛けていたのです。

今はどうか知りませんが、昔は日本の学校では、アメリカのプラグマティズムは教えるものの、宗教国家であることはあまり伝えられなかったのではないでしょうか。私は、ヨーロッパではとても経験できない巨大な宗教国家に来たものだと思い、それ以来アメリカの宗教現象に興味を持つようになりました。

「ポスト・トゥルース」とキリスト教

きょうのお題は「トランプ政権と福音派」ということなのですが、トランプ政権を生んだ時代精神としては、1期目に臆面もなく表明された「ポスト・トゥルース」(ポスト真実)という新たな形の世界認識がありました。事実の相対化という現象なのですが、実はこれには16世紀のルターによる宗教改革が関係していると言われています。

事実関係の特定ないしその努力なしでは社会生活を営んでいくことは難しいわけですが、トランプ政権は、その常識をあっさりと捨ててしまいました。

2017年のトランプ大統領の1期目の就任式は、陰気な雨がしとしと降っていて、群集が立錐(りっすい)の余地もなく集まるというわけでもありませんでした。しかし、トランプ政権側は、史上最大の動員数だったと自画自賛しました。それに対して、米メディアが航空写真を根拠に、それは違うのではないかとただすと、大統領補佐官が、「オルタナティブ・ファクト」(もう一つの事実)だとうそぶいたのでした。

この話が、福音派と何か関係があるのかと言うと、ポスト・トゥルースは宗教改革に源流があるからなのです。

16世紀にルターの宗教改革が起きました。聖書は自分で読んで自分で解釈するのが正しいという教え、つまり「万人祭司主義」が広まりました。旧教すなわちカトリックは、ローマ教皇を頂点とする教会が信仰の仲立ちをしていたわけですが、ルターはそれを否定し、個人と神が直接つながる関係の構築を説きました。神と直接つながった信仰を持つ自分こそが義とされるわけです。

その信仰体系が500年ぐらいたったアメリカでは、自分が思ったことは自分がそう思っているからという理由で正しいという、相対主義が広まるようになりました。神と直結した信仰の絶対化が、事実の相対化につながる逆説が生まれたわけです。自分がそう思えばそれはオルタナティブ・ファクト、オルタナティブ・トゥルース、もう一つの現実だという思考が、宗教的背景の下で成立し、受け入れられているのです。そのような時代精神の変容があって、「トランプ革命」を可能にしたということがまず言えると思うのです。

福音派の霊性・神秘性

さて、福音派を定義することは難しいのですが、では福音派でないものが何かというと、まず主流派(メインライン)というカテゴリーがあります。長老派、聖公会、ルター派、バプテストなどです。昔、WASP(ホワイト・アングロサクソン・プロテスタント)が主流だと言っていた時代は、ほとんどの白人がメインラインだったわけですが、この間、メインラインは衰退していきました。その原因は、世俗化し、神秘性が弱まってきたためだと言われています。

それに対して、福音派は聖書第一主義で、霊的なものを貴ぶわけです。神秘性があるわけです。それがなくなると、宗教というのはやはり人気がなくなるのです。ある意味、不合理で理不尽な部分がないと、宗教ははやらなくなる。昔、「不合理ゆえに我信ず」と言った作家がいましたが、まさに不合理でないと、宗教は成り立たないのです。理性的なメインラインの衰退の間隙を縫って福音派が台頭してきた。

福音派にはペンテコステ派というグループも存在します。これは祈りによって精霊が降り注ぎ、意味の分からない異言をしゃべり始めることを非常に尊んでいる宗派で、それが福音派の中で存在感がある。

カリスマ派と呼ばれているグループもあり、魔術的な要素も抱えています。ただ、メインラインと福音派はぴったり分かれているということではなくて、メインラインにも福音派はいます。

福音派の熱量を利用か

ちなみにトランプ大統領の家は長老派ということになっています。母方がスコットランド系、父方はドイツ系ですが、あまり宗教的な家庭ではない。父方の先祖は、ドイツ南西部の村のブドウ農家でしたが、トランプ氏の祖父は少年時代に家を出て、ドイツから汽船に乗ってアメリカに渡り、いろんな仕事をこなしながら、なんとかビジネスを大きくしていきました。トランプ氏は移民3代目になりますが、信仰の篤(あつ)い一族というふうには見えません。

ただトランプ氏は神がかりを演じることで福音派の支持を集めています。トランプ氏は、権力のプラグマティスト、オポチュニストであり、福音派を支持基盤としてその宗教的熱量を最大限活用しているのです。

終末論を受容

福音派の定義というと、やはり一番大きいのは、聖書に書いてあることはすべて正しいとみなす態度です。その聖書が、救世主イエス・キリスト誕生後の新約聖書だけを指すのかと言うとそうではなく、ユダヤ教の経典である旧約聖書に書いてあることも真理として受け入れる立場なのです。聖書には、「ヨハネの黙示録」に代表される幻視の記述がたくさん書かれています。総じて福音派はその幻の部分も受け入れており、そうすると終末論を受け入れる考え方になるのも自然なわけです。

そのため、イランへの軍事攻撃も、聖書の終末論を前提に反応している人たちが出てきます。トランプ大統領はむしろ、聖書の記述、とりわけペルシャが登場する部分を意識して、イラン攻撃を始めたのではないかと思われる節があるのです。

イラン攻撃の理由はいろいろ指摘されています。投資に使っているという話もあり、大統領の口先介入で株価が上がったり、下がったりする。そういう記事がニューズウィークに堂々と出るくらいで、恐らくそれも当たっているのでしょうが、ただそれだけではなくて、岩盤支持層を構成する、福音派を中心とするキリスト教国家主義勢力、キリスト教シオニストらによる政権の求心力を高める狙いもあるのは確かでしょう。イランを攻撃すると、聖書の予言がまさに現実のものになりつつあるというわけで、信者が熱く刺激されるのです。

1億人擁する福音派

その福音派の数ですが、いろんな数字があるものの、7、8千万人から1億人と言われています。米国公共宗教研究所(PRRI)の2025年の調査では、13%が白人福音派、白人メインラインも13%で並んでいます。このほか、12%が白人カトリックなどとなっています。しかし最大の勢力はどの宗派にも属していないという人が28%に上ります。この無宗派層にもキリスト教国家主義に共鳴する人たちが結構いると思われます。

福音派がどれだけトランプ大統領の岩盤支持層になっているか。まず、CNNでトランプ氏の支持率を見ると、直近では支持率は30%台前半に落ち、不支持率は60%を大きく超えています。これを福音派の支持率で見ると、トランプ氏支持が52%、不支持は47%。対イラン攻撃や物価高が始まる前、去年の9月ぐらいだと、60%が支持しているぐらい高かったわけだが、それでもまだ5割を切ってないというのがロイターの世論調査です。福音派が岩盤支持層を形成していることを裏付ける数字が世論調査の結果に出ています。

前回の2024年の大統領選挙の出口調査を見ると、白人福音派が8割投票し、トランプ氏の地滑り的な勝利につながっています。

ちなみにアメリカの大統領選挙では、カトリック票で負けると当選しない傾向があるので、福音派とともにカトリックの動向も注意すべきポイントです。

キリスト教国家主義の指標

米国の動向を見る上では、福音派と大きく重なるキリスト教国家主義勢力の観察が重要になっています。

英語ではChristian nationalismで、ナショナリズムは民族主義、国民主義などを含む幅広い概念ですから、そのままナショナリズムと表記する向きもありますが、私としては、その方向性から国家主義と訳出したい。

例えば、ナチスもナショナルであって、昔の教科書は「国家社会主義ドイツ労働者党」と言っていました。最近、山川出版の世界史の教科書では「国民社会主義」と訳しています。ただ、ナチスの国家社会主義を国民社会主義と言ってしまうと、ナチス国家の暴虐性が語感としてあまり伝わらなくなるんじゃないかと思う。したがって、キリスト教福音派の中で起きているナショナリズムの運動は、あえて国家主義とした方がいいのではないでしょうか。

キリスト教国家主義者の定義ですが、PRRIが5つの指標を用い、測定しています。第1の指標として、政府に対し、アメリカがキリスト教国家だと宣言するよう要求している人たちがキリスト教国家主義者です。第2に、アメリカの法律は、全部キリスト教の価値観を基盤にすべきだと要求している人たちです。

第3に、アメリカがキリスト教の基盤から逸脱すれば二度とアメリカ人は国を持つことはないと考える人たち。キリスト教の基盤から逸脱することへの危機感、切羽詰まり、思い詰めた感じがあります。第4にキリスト教徒であることは真のアメリカ人であることの重要な部分だという主張です。つまりキリスト教徒でないとアメリカ人とは言えないという主張だから、これは非常に排他的というか、ナチス的な偏狭さがあります。ということは、例えば、イスラム教徒だとか、キリスト教徒でないというのは、排除すべしという思想につながります。

5つ目の指標は、アメリカ社会のすべての分野でキリスト教徒が統治を実行するよう神は求めていると考える立場。統治という言葉にはドミニオンという言葉を使っていて、単なる統治というよりも、神の支配を意味する言葉です。

PRRIの米国価値観調査によれば、キリスト教ナショナリズムの信奉者と共感者を合計すると32%になります。アメリカの「神権体制」の成立を支持している人たちと思われるのが、それだけいるということになります。キリスト教徒でなければアメリカ人ではないというような考え方をする人たちが多いというのが今のアメリカの現実なのです。

暴力容認の傾向

キリスト教国家主義の政治傾向として、暴力を容認しているところが非常に大きな特徴になっています。

キリスト教というと、右の頬を打たれたら左の頬も差し出しなさいなどと、平和主義的な性質をイメージするかもしれませんが、キリスト教国家主義者は、真の愛国者はアメリカを守るために暴力に訴えることは許されるという思想にかなり共鳴しています。信奉者と共感者の53%が賛成しているのです。

戦前の日本右翼の一人一殺ではないが、国家を守る目的のためには愛国者は暴力に訴えてもいいと考えるのです。2021年の議会乱入事件も、愛国者だから許されるという考え方の下地がここにあります。アメリカ人は銃も持っているから、本当に危ない社会になっているのです。

「大置き換え理論」を支持

次に移民に関して、67%が、「グレートリプレイスメント」(Great Replacement)の理論を支持しています。「大きな置き換え」という意味ですが、移民が大挙押し寄せて来れば、民族とか人種が置き換わり、いわゆる白人国家としてのアメリカが無くなってしまうという危機意識です。その考え方を基に、適正な手続きなしで不法移民を外国に移送してもそれは許されると考える割合が、キリスト教国家主義の信奉者51%、共感者54%に上っています。それが、移民税関執行局(ICE)による強引な不法移民拘束とエルサルバドルへの移送を容認する背景となっているのです。さらに、不法移民だけでなくアメリカへの脅威とみなした者を拘束し市民権を剥奪して移送する措置についても、キリスト教国家主義信奉者の66%・共感者の56%が、支持しています。

キリスト教シオニスト

キリスト教国家主義者の具体的な人物としては、ヘグセス国防長官が挙げられるでしょう。いろいろ物議を醸している人ですが、キリスト教シオニストでもあり、イスラエルの極右と一体化している人物と言っていいでしょう。

元々はニュース番組の司会者で、タトゥーが衝撃的でした。胸にエルサレム十字という十字軍のシンボルを彫り、腕にはラテン語で、「神はそれを望む」と入れ墨している。

マイク・ハッカビー駐イスラエル大使は、福音派の牧師として活動し、2008年の大統領選挙時に共和党の予備選に出馬し、一時旋風が吹きかけた人です。イスラエルのやっていることは正しいと繰り返し言っている人で、キリスト教シオニストに数えられます。

先ごろ解任されましたが、ICEを傘下に置く国土安全保障省の長官で、クリスティ・ノームという女性も、登場してきた頃からキリスト教国家主義者として名前が挙がっていました。

右翼権威主義と福音派

一方、PRRIは、キリスト教国家主義とは異なるカテゴリーとしてアメリカの右翼権威主義の広がりも調査しています。

その方法は、①今後の国の危機を切り抜けるには伝統的価値に立ち戻り、強力な指導者を置き、間違った考えを拡散するトラブルメーカーを黙らせることが唯一の方法である②アメリカは道徳心や伝統的な信念を蝕む連中を粉砕しなければいつか破壊される③アメリカが必要としているのは悪を滅ぼし、われわれを真の道に連れ戻す、強く断固とした決意を持つ指導者であるトランプ大統領である④トランプ大統領はアメリカを断固とした決意を持って正しく導いてくれる⑤アメリカは祖先の生き方を学び、当局の指示を実行し、すべてを台無しにする腐った林檎を排除すれば偉大な国になる─という言説に対して賛否を問うもので、その回答をスコア化し、右翼権威主義に傾斜する可能性を測定しています。

その結果、大学の非卒業者は、卒業者に比べて、右翼権威主義になる可能性が1・6倍になることが示されました。また低所得層ほど、右翼権威主義に走る傾向があるという数字も出ています。白人福音派は無宗派層より2・9倍、右翼権威主義になる可能性があり、さらに6・5倍、キリスト教国家主義になると推計されています。驚くのは、女性は、男性よりも1・2倍、権威主義になる可能性があるとのことで、言われてみれば、20年ほど前の米大統領選で、サラ・ペイリンさんというマッチョな感じの共和党女性候補に福音派が熱狂しているという話がありました。アメリカではその頃から、女性のやや権威主義的なキャラクターが人気を集め始めていたのだと、この数字を見てそう思います。権威主義とは、端的に言ってしまうと、ルールはルールであって、ルールから逸脱した者を許さないという不寛容な精神を下敷きにしていると考えています。わが国も今、不寛容で融通の利かない、住みにくい社会になっており、権威主義の波が押し寄せている感じがいたします。

ディスペンセーション主義

イランの攻撃に関して言うと、あまり聞き慣れないかもしれないが、ディスペンセーション主義というキリスト教の独特の歴史観も関わっていると考えます。キリスト教とかユダヤ教は、歴史には始まりと終わりがあって、時間はその終わりに向かって直線的に進んでいると考えるわけですが、キリスト教には「携挙」(ラプチャー)という観念もあるのです。これは聖書に書いてあるのですが、終末が近づく時、ある日突然、正しい人は神様に引き上げられていなくなるというのです。残された人々は、神様に選ばれて天国に連れて行かれなかったので、大変な苦労をするのだと。それが7年間すごい苦しみを受ける。この苦しみに満ちた期間を大患難(トリビュレーション)といい、この苦しい時代を抜けるとキリスト再臨という待望の時代が訪れる。

日本ではあまり伝えられていませんでしたが、「レフトビハインド現象」というものも米国で起きていました。ある日突然、携挙が行われることを題材に、1990年代に牧師と作家が共同で「レフトビハインド」という近未来小説を書いたら、これがもうシリーズ累計6千万部とか7千万部が売れたというのです。

ソープオペラとディスペンセーション主義の神学を足したような作品なのですが、アメリカでは20世紀末からそのような終末論が受ける下地ができていたということなのでしょう。20世紀末には、コンピューター2000年問題、Y2K問題というのがしきりに話題になり、その終末的ムードもレフトビハインド現象を後押ししたものと位置付けられますが、いずれにしても、ディスペンセーション主義で書かれたファンタジー小説が、今のアメリカ人の意識の在り方に影響を与えたことは否定できないようです。

トランプ政権の宗教的合理性

トランプ氏は予測不能と言われていますが、実は宗教に照らすと、割と合理的なことをやっています。

まず北大西洋条約機構(NATO)との関係です。キリスト教国家主義者はアメリカ・ファーストなので国際機関に対する不信感というか、疑念というのは非常に強い。だからトランプ大統領がNATOをいじめて、ドイツとかフランスとか、デンマークに至ってはグリーンランドを寄越せとか言ったりして圧迫すると、宗教勢力から喝采を受けることがあるのです。

キリスト教国家主義者にとっては、アメリカの主権というのは神から授かっている尊くも神聖なものです。それがNATOや国連の枠の中で、あの世俗的な欧州諸国から制限されているのは、けしからんというわけです。だからトランプ氏は、岩盤支持層のために一生懸命、国際機関をいじめる。

次に、キリスト教シオニズムです。「イスラエルのためのキリスト教連合」というのが2000年代に成立しました。この組織をつくったのは、ペンテコステ派の牧師、ジョン・ヘイギーです。この組織は今、会員数700万人とも言われ、最も強力なイスラエル・ロビーとして機能しています。

福音派の多くは、聖書を全部受け入れているから、ユダヤ人がハルマゲドンに集まって、そこで世界最終戦争が起きることも信じています。

トランプ氏を、古代ユダヤ人をバビロン捕囚から解放したキュロス大王になぞらえる言説も耳にします。キュロス大王というのは、ペルシャつまり今のイランが輩出した偉大な王です。トランプ氏がその再来というのもいささか奇妙ではありますが。

今言ったジョン・ヘイギーが、イランとの枠組み合意をどう評価しているかと言うと、対イラン攻撃で全てはうまくいっていたのに、なぜトランプ氏は後戻りしたのか、というようなことを問い、合意に不満を漏らしています。

聖書を全部受け入れると、イスラエルの民は神から約束された土地パレスチナに建国して当然ということになります。アメリカの福音派もまた、アメリカは神に約束された「丘の上の街」だという意識が強烈にあり、それが米・イスラエルの紐帯を形成しているのです。皮肉な言い方をすれば、アメリカは先住民を駆逐して国を造りました。パレスチナ人を追い出して建国したイスラエルは、米国を模範にしたともいえるわけで、国家の成り立ち自体にも両国の絆が見て取れるのです。

AIと終末論

トランプ政権が加速させる人工知能(AI)も、終末論と無縁ではありません。バイデン前政権当時にはAI開発に抑制気味なスタンスでしたが、トランプ政権になるとそれはガラリと変わり、とにかく行くとこまで行ってしまえという流れになった。

それはAIの「効果的加速主義」と呼ばれますが、結局、とにかく世界はいつか終わるわけだから、もうAIが出た以上、それをとことんまで加速させていい、それは神様が望むところじゃないかという考え方が、この背景にあるのだとみています。ここには、テック企業の大物たちの推進力が働いているのですが、そのリバタリアン的な自由至上主義が、終末論と重なり合っています。今、AIはミュトス問題で騒がしくなっていますが、加速的効果主義は終末論の亜種とも言えるのではないかと思っています。

最後に、トランプ氏の精神世界ですが、最も影響を受けたのは、いわば成功哲学の伝道師ともいうべきノーマン・ヴィンセント・ピールという牧師であったことが知られています。ピールは世界的ベストセラー『積極的考え方の力』で知られる自己啓発の大御所的存在です。

トランプ氏は、決して宗教的な人物ではないものの、福音派の系譜の一つでもある「繁栄の福音」の中で生き、地上の成功こそが神の祝福を証するというカルヴァン主義の教理を無意識のうちに取り入れていると思われます。

今成功して豊かになっているということは、それは既に神様から祝福され、救われていることの証明だという教えがカルヴァンの予定説で、それがトランプ氏の成功哲学にもつながっているのは確かです。

後半、だいぶ駆け足になってしまいましたが、私のお話はこれで終わりにします。ご清聴ありがとうございました。

講演会場での質疑は以下の通り。

Q トランプは宗教的というより、福音派の人たちの支持を得ることが一番自分を利するということで、世俗的にやっているのかなと私は考えているが、どうか。

A おっしゃる通りです。トランプ氏はアメリカの大統領としては異例なほど非宗教的です。トランプ氏は、岩盤支持層としての福音派を利用しているのは間違いないと思います。

ただ問題は、女性問題などで醜聞の絶えない俗物の塊みたいなトランプ氏を福音派がなぜ支持しているのかということですが、そこには福音派的な傾きがあるようです。つまり、最もありそうでない人物が神から選ばれたということで、福音派はそこに人智を超えた「神の働き」を見るらしい。そういう逆説があるのです。

(本稿は7月1日に行われた講演内容を要約、一部加筆した)

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