会見室の席順を巡って綱引き ホワイトハウスと記者協会
米大統領府ホワイトハウスにある「ジェイムズ・S・ブレイディ記者会見室」。テレビに頻繁に登場するが、「どの報道機関がどの席に座るか」は、米国メディアと権力の関係を考える上で、かなり興味深い視点だ。会見室は記者約200人を収容する。しかし、テレビに映る固定席は、7席7列の49だけで、席には社名が書かれた金属プレートが付いている。2025年のトランプ第2次政権発足後、この席順を「誰が決めるのか」という問題が持ち上がった。
固定席を確保しているのはもはや、新聞、テレビ、ラジオなど伝統的メディアだけではない。オンラインオンリーのデジタルネイティブがどれほど参入してきたかも米メディア史を反映している。
会見者の後ろには青い地にホワイトハウスのエンブレム。質問となると、固定席だけでなく、その後ろに立つ記者グループからもザザッと手が上がる。丁々発止の質疑応答はテレビドラマのような緊張感にあふれる。世界で最も有名で、最も露出が多い会見室と言える。
固定席は1981年のレーガン政権期に設けられ、今日までホワイトハウス記者協会(WHCA)が席を割り当ててきた。暗黙のうちではあるが、席には明確な「格」、あるいは「順列」がある。最前列ほど会見で指名される可能性が高く、テレビにも映りやすい。ネットワーク局やニュース専門ケーブル局で中継を見ると、最前列で質問している記者が所属する社名と名前がテロップで出てくる。鋭い質問であれば全米の視聴者をうならせ、ぬるい質問をすればSNSで批判の対象となる。従って、報道機関のブランドとも直結しており、最前列の記者は日々、権力側と視聴者の厳しい目にさらされている。
この最前列を占める7社は調べた限り、2009年のオバマ政権から今日まで変わっていない。3大テレビネットワーク局ABC、CBS、NBCとFOX、通信社AP通信とロイター、ニュースケーブル局CNNの7社だ。つまり、現在も伝統的メディア、特にテレビがホワイトハウスの報道機関では影響力が強いという構造だ。
第2列は、全国紙のニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、ウォール・ストリート・ジャーナル、USAトゥデイと、通信社のブルームバーグとAFP、NPR(公共ラジオ)が陣取る。3列以降と立ち見席は、スペイン語テレビや地方の放送局、ビジネス専門ケーブル局、保守・リベラル取り混ぜた雑誌(現在はほとんどデジタルがメイン)という顔ぶれだ。
ホワイトハウスの席決め介入が物議
2000年代以降、後述するデジタルメディアの新規参入以外の変化はなかった。しかし、25年3月、「激震」に見舞われた。ニュースサイト「アクシオス」が「ホワイトハウスが席順を決める検討」と報じたためだ。トランプ第2次政権は、WHCAが決定していた固定席の配置を掌握することを表明し、WHCAは強く反発した。単なる「席替え」ではなく、権力側が自分を取材する報道機関を決めるという話だ。当然、トランプ氏に好意的な保守系メディアが固定席を占めるのではないかという懸念が生じる。直前には、トランプ政権が大統領同行取材をする「プレス・プール」の選定権をコントロールし始めた。「報道の独立性」が、世界最大のニュースの現場であるホワイトハウスで危機にさらされていた。
26年2月、WHCAが会員にメールで送った新たな席順シートが明らかになった。スクープしたのは、保守派メディア監視団体「メディア・リサーチ・センター(MRC)」が運営する「ニューズバスターズ」だ。内容は、49席のうち33席を変えるが、最前列7社は変わらないこと(実際には2列目もほとんど変化なし)。さらに、「席を満たすことがない社は即刻、固定席停止あるいは剥奪」と釘を刺している。
目立つデジタルメディアの新規参入
2月9日から実施した新たな席順では、保守系ニュースサイト「デイリー・ワイヤ」、アフリカ系アメリカ人向けの新聞社が加盟する全国新聞発行社協会(NNPA)が運営するニュースサイト「ブラック・プレスUSA」、英高級紙「テレグラフ」の3社が、最後列の席をシェアし、「アクシオス」、政治ニュースサイト「NOTUS」、ニュースサイト「セマフォー」の人気デジタルトリオも最後列席に。音声メディアサイト「iハート・メディア」も新規参入で、会員だった米地方紙ボストン・グローブと席をシェアする。つまり新規参入7社は、全社デジタルネイティブだ。
逆に固定席を失ったのは、トランプ政権により解体の危機にあるボイス・オブ・アメリカ(VOA)、新聞大手マクラッチー・ニュースグループ、地方紙ダラス・モーニング・ニューズ、Yahoo!ニューズなど。
メディア史的には、デジタルネイティブの進出が際立つ。バラク・オバマ元大統領が09年、会見室で初の会見をした際、立ち見だったハフィントン・ポスト(当時、現ハフポスト)の若い記者を指名して話題を呼んだ。程なく、ハフポストほか、バズフィード、ポリティコなどに固定席が割り当てられた。デジタルネイティブが増えていく流れは、26年2月の席替えで、固定化されたのは間違いない。
日本の首相官邸の記者クラブである「内閣記者会」との違いにも触れておく。内閣記者会は席順が厳格に決まってはいないが、最大の違いは質問時のルールだ。ホワイトハウスでの質問は、基本的にフリートークの激しいバトルだ。質問に対しトランプ氏が「悪質な社だ」「悪いやつだ」と個人攻撃するのは日常茶飯事だが、記者らはそれでも果敢に質問し、大統領の職権濫用を抑止しようと努力している。これに対し、内閣記者会では、質問内容が官邸側に通告され、閣僚が想定問答を読み上げることが一般的だという。つまり「スクリプテッド(台本にのっとった)」スタイルだ。記者会が権力の監視をするというよりは権力側の発表ルールに従っているという印象を受ける。
また外部ジャーナリストらのアクセス権ルールも異なる。ホワイトハウスではWHCAに所属していなくても、時間はかかるがデイリーパスという記者証を得られる。ポッドキャスターやフリーランス・ジャーナリストが質問するチャンスはある。内閣記者会は、デジタルネイティブ系報道機関の記者やフリーランス・ジャーナリストが参加はできるものの、席数への制限が壁となっている。また質問できる回数なども、伝統的メディアに比べてはるかに少ないのが現状だ。