サッカーのワールドカップ(W杯)が北中米で開催され、サッカーが4大人気スポーツ(アメフト、バスケットボール、野球、アイスホッケー)ではない米国でも盛り上がりが見られる。しかし、各国の勝敗だけでなく、主催の国際サッカー連盟(FIFA)に対し、「収益を独占している」と金権体質を批判する報道が絶えない。

「米11都市は、大会開催のために数億㌦規模の費用負担を引き受ける一方で、FIFAは約110億㌦の利益を得る見込み」(調査報道サイト、プロパブリカ)と非難。決勝戦をホストするニューヨーク州とニュージャージー州では、FIFAのチケット販売方法に「詐欺」の可能性があるとして、司法当局が捜査に乗り出している。

プロパブリカは、開催地のテキサス州のヒューストン・クロニクル、テキサス・トリビューンとの共同調査で「FIFAはW杯から数百億㌦を稼ぐ一方、開催都市はほとんど利益が残らない」と報道。自治体と納税者は、スタジアム改修、警備、交通対策、ファンイベントの費用を全額負担する一方で、FIFAはチケット・駐車場収入、放映権の収益を独り占めするという事実を報じた。

プロパブリカは、開催都市契約書を入手。開催都市、特にスタジアムはチケット・駐車場収入、飲食・グッズ収入をほとんど得られないと報じた。安全保障条項には「大会の安全と警備全体の責任は開催都市にある」とあり、税金条項には「全ての税金・関税・賦課金は開催都市が負担する」と書かれ、治安・警備対策だけでなく、税金まで都市側の責任だ。これは当然、各国からのファンや市民の負担となる。例えばニューヨーク中心部から決勝戦開催のメットライフ・スタジアムへの電車運賃は通常片道約13㌦だが、観戦者は往復98㌦の負担を強いられる。鉄道会社は「安全・警備対策費用を上乗せした」と説明している。

中西部イリノイ州シカゴは、全米第3の都市でスポーツとの関係も深いが、開催を拒否。オバマ元大統領の元首席補佐官で、元シカゴ市長のラーム・エマニュエル氏は「FIFAは利益だけ持っていき、請求書はシカゴ市民に回そうとした」と批判した。「私は、シカゴの納税者に愚かな投資を押し付けることはしなかった。FIFAはシカゴが全てのリスクを負ってくれて、褒美は全部独り占めにできると思っていたが、私はとっとと失せろ、と言った」と話し、「FIFAは、シカゴのことを玄関の足拭きマットとしか思っていなかった」とも語る。

プロパブリカにコメントした1994年米国大会の運営責任者だったアラン・ローゼンバーグ氏は「今では、シカゴが賢明な選択をしたと思っている」と証言。94年時点では、飲食収入と試合運営収入の一部を開催都市が得られる仕組みになっていたというが、今回はそれも姿を消した。

果たしてW杯は経済効果をもたらすのか。FIFAは「470億㌦」という数字を喧伝するが、プロパブリカによると、スポーツ経済学者のヴィクター・マセソン氏は「狂気じみた数字」と一刀両断。例えば、今大会に訪れている各国からのファンのSNS発信を見ても、チケット代が高く、スタジアム外での飲食・娯楽の出費を極端に抑えている様子が分かる。同様に開催期間中の地元商業施設などに観光客が行かないため、悪影響も大きい。

一方で、ほとんどのスタジアムは有名企業の保有だが、FIFAはマーケティングを厳しく制限。例えば、東部マサチューセッツ州ボストンのジレット・スタジアムは、FIFAが公式スポンサー以外の露出を制限するため「ボストン・スタジアム」の呼称を使わされ、各シートにあるジレットのロゴを隠した。サンフランシスコのリーバイス・スタジアムは建物正面の「リーバイス」のロゴが白い幕で覆われた。リーバイスはこれに対抗し、TikTokなどのSNSのプロファイル写真を白幕で覆われたロゴに切り替え、話題を呼んだ。

ファン置き去りの高額チケット販売

チケット代の高騰も大きな問題だ。前大会よりも3〜4割高とされ、数百㌦から1万㌦を超えるチケット代を払う人もいる。これに対し、ニューヨーク州とニュージャージー州の司法長官は、FIFAに対する捜査を開始。当初四つの座席区分(カテゴリー)でチケットを販売したにもかかわらず、ファンが購入した後に「より条件の良い座席エリア」を新設して高額販売した疑惑があるという。この「後出し販売」でカテゴリー1や2の高額チケットを購入していたファンが、意図せずピッチから遠い劣悪な座席へ追いやられる被害が相次いだことも問題視している。同時に需要に応じて価格が変動する「ダイナミック・プライシング(変動価格制)」を取り入れたため、「4年に1度だから」と思ったファンの投機を煽(あお)った。FIFAの販売方法についての捜査結果が注目される。

このほか、FIFAパートナーと競合する企業が販促することを「禁止した」という。「W杯」を地元企業、レストランなどが使うことが制限されているため、日本とは異なり、街中ではW杯関連の広告やお祭りムードの飾りはほぼ見られない状況だ。

2022年開催のカタール大会は、人権問題が批判された。スタジアム建設に雇われた外国人の過酷な労働環境、LGBTQ+(性的マイノリティー)差別、女性差別の三つが大きな問題だった。こうした差別からは自由であるはずの民主主義国家で開催された北中米大会だが、なおも課題を残した点で五輪に並びW杯は「スポーツ・ウォッシング」、つまり、スポーツの興奮、感動でネガティブな問題から目を背けていいのかという点についてはいまだに解決に至っていないことが明白だ。

トランプ大統領が仕掛けたイランへの武力攻撃の影響で、イラン代表がメキシコでの滞在を強いられ、米国での試合前日の宿泊ホテルも厳重な警備で選手が外出できない環境に置かれた。スポーツとは無関係であるべき「政治的思惑」の犠牲になった、「大会中最も不幸なチーム」(米メディア)として取り上げられている。

スポーツの祭典ながら、公共資金の使い方、FIFAのガバナンス、開催都市に対する説明責任などの点で多くの問題を残し続け、FIFAの肥大化を許している。開催都市や地元ビジネスがブランド向上に結び付けることもできず、納税者が高いチケット代だけでなく、公共交通機関、警察・消防などの警備費用まで払わされている面が浮き彫りになっており、今後に大きな課題を残している。

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