『こちら日本中学生新聞』 川中だいじ著 (柏書房=1980円)

ジャーナリズムと政治の立ち位置は一般に相克的だ。取材する側とされる側として常に一定の緊張感をはらむ。政権批判は報道の使命であり、政治は報道をコントロールしようとする。某大国の大統領とメディアとの関係を引き合いに出すまでもない。
その一方で、両者には本質的な共通点が少なくないのではないだろうか。
なぜこうなっているのかという素朴な問題意識からスタートし、現状をより良くするために必要な課題を洗い出し、何をなすべきかを立案し、言葉で広く伝え、理解を得るべく手を尽くす。
目指すのはいずれも社会正義の実現であり、重い説明責任が課されているところも同じだ。
本書を読んでまず感じたのはそんなことだった。なぜなら著者の川中だいじさんが実践している内容が、まさに前述のプロセス通りだからだ。
川中さんは小学3年だった2019年の参院選で選挙に興味を持ち、各候補者の演説を聞きに回った。笑って手を振る大人たちの姿が面白かったそうだ。翌20年に行われた大阪都構想の賛否を問う住民投票では、校内でアンケートを取り、投開票日には反対の立場からビラ配りをしている。
教室で友人に「消費税はいらないよね」と話したところ、政治の話をするなと教師に叱られる。納得がいかない川中さんは、学校を変えるためには政治が変わる必要があると考え、選挙の重要性を強く意識するようになる。
日本中学生新聞の創刊は23年3月。政治的主張のためではない。この年に広島で開かれたG7サミットを取材するための報道機関登録に必要だった。1枚紙に原発と選挙に関する手書きの記事2本とコラムを掲載。「中学生が作った民主的読みものである」との辞を添えた。
なお、この時は学生であることを理由に登録申請を却下され、そんなことは申し込み要領に書いていないと外務省に電話で問いただしている。担当者にのらりくらりと質問をかわされる「お役所対応」が一字一句再現され、興味深い。
中学1年で生徒会長選に立候補すると、培ったノウハウを生かした選挙戦を展開し初の1年生会長となる。「選挙の神様」田中角栄の演説動画を参考にしたという。意見箱を設置して生徒の声を反映させ、通学かばんのリュック化に道筋を付けた。
その行動力には目を見張る。常に目的と手段を明確にし、関係者の話を聞いて合意形成を図り、適正手続きを踏んだ上で周囲を巻き込んでいく。根底にあるのは「なぜこうなのか」「より良い方向にするためには何が必要か」という目的意識と強い意志だ。
この他にも25年の大阪・関西万博とカジノを含む統合型リゾート(IR)計画に反対の論陣を張り、ギャンブル依存症の啓発団体の代表者にインタビューしている。斎藤元彦知事のパワハラ疑惑などを受けた出直し兵庫県知事選でも、候補者全員を取材し、本書で主張を公平に取り上げた。
記者稼業が長くなるほどに、腹芸や駆け引きの重要性、多くの物事が理想論ではなく「大人の事情」や「足して2で割る」で決まることを知る。知恵が付く分、世間ずれし、政治的解決に違和感を覚えなくなる。川中さんの愚直とも言える姿勢は、「子供の視点」こそが報道の原点だと気付かせてくれる。