クールジャパン機構の破綻に学べ 縦割り、無責任体質からの脱却を

この8月、第2次安倍政権が肝いりでスタートさせたクールジャパン機構(海外需要開拓支援機構)を統廃合する方向で調整していることが発表された。クールジャパン機構は、2013年にアニメやゲームといったコンテンツや、ファッション、日本食などといった日本独自の文化の海外展開を支援し、海外での販路拡大を目的に、官民ファンドとして設立。これまでに国が1406億円、民間組織24社が計117億円を出資。50件を超える事業に投資してきた。

その初会合に出席した当時の安倍晋三首相は、「日本のものは素晴らしいと思ってもらえるというのは、日本に対する尊敬の念が芽生えるということにもなる」と、その意義を高らかにうたっている。

しかし、業績が悪化する投資先が続出。そのほとんどが失敗に終わり、累積損失が540億円にも達する。背景には「クールジャパン」の名の下に投資先を無節操に広げたことに起因するところが少なくない。投資先の中には人工クモの糸などのバイオ繊維を手掛ける先端繊維ベンチャー企業に計140億円出資したが、業績が悪化。約50億円で企業譲渡される事例もあり、どこまでが、「クールジャパン」なのか、その曖昧さは、早くから指摘されていた。

このような状況に、財務省は、経産省にクールジャパン機構の2023年度中の統廃合を迫ったが、経産省はずるずると引き延ばし、ようやくこの8月に、クールジャパン機構に関する来年度予算の概算要求を見送るとし、機構の廃止も含めて年内をめどに結論を示す方針を発表した。

官民ファンドは国の出資や政府保証付きの債券発行などで資金集めを行う。焦げ付いても最後は国が損失をカバーしてくれるので、多額の資金が簡単に集まる。それ故に、投資が目的化され、その資金を活用した長期的な展望に基づく構造改革がないがしろにされかねない。加えて官民組織がしばしば指摘されるのは、組織の「縦割り」性による構造的な無責任性である。構造改革には、明確なビジョンで全体をリードする個人が必要であり、また、それには責任が伴う。クールジャパン機構の失敗は、それを私たちにさらしたのではないか。

韓国・コンテンツ振興院の努力

私ごとで恐縮だが、この9月、韓国・水原市で開催された第23回日韓中テレビ制作者フォーラムに出席した。本欄でも以前紹介した通り、日韓中テレビ制作者フォーラムは、3カ国のテレビ制作者、メディア研究者らが集まり、テレビ制作を取り巻く状況や課題を話し合うことで相互理解と文化的な交流を続けてきた。特に2022年の第20回大会から、国際共同制作などビジネス・チャンスを探る場にもなっている。

今回の開催地・水原市は、朝鮮王朝の正祖(チョンジョ)王によって築かれた城郭で、ユネスコ世界遺産にもなっている水原華城や、朝鮮王朝最大の行宮で、韓国ドラマのロケ地としても知られる華城行宮で知られているとともに、韓国最大のIT企業・サムスンの本社がある。

そのような開催地ということもあって、今回のグランドテーマは「AI時代 東アジアコンテンツの未来」。サムスンのお膝元らしいテーマ設定とも言えるが、今のテレビ制作の現場が直面する最大の課題の一つが、AIをどう制作に生かしていくかであることは間違いない。実際のフォーラム運営上でも、全ての言語翻訳をAIによるアプリが務め、参加者は自身のスマホで指定する言語で音声、字幕を得ることができる態勢が用意されていた。

話が少し脇にそれたが、開会式のあった初日の昼食会で、韓国コンテンツ振興院の水原地区の責任者タク・ヨンソク氏らとご一緒した。韓国政府のコンテンツ政策の推進を担う組織の幹部だけに、海外市場を重視した韓国のコンテンツ政策に関する姿勢が明確で、その協力体制の構築に汗を流していることが伝わってきた。

この日、地元・水原市の行政府にコンテンツ振興策を説明、協力を得るとのことで、昼食会後には、早々に会場を後にした。日ごろから、関係者との連携を重視し、責任を明確にした政策遂行がなされているところを垣間見た気がした。今回のフォーラムも、水原市の全面協力で開催され、水原市長も、開会式に参加されていた。

1990年代後半、韓国・金大中政権は、アジア通貨危機の中で、韓国経済の難しい舵取りを迫られていた。その中で産業振興策の一つとして、コンテンツ制作力の強化にかじを切る。その司令塔として置かれたのがコンテンツ振興院である。韓国は、大統領制ということもあって、強力なリーダーシップで政策遂行がなされる一方で、その責任も明確である。

改めて問うクールジャパンの問題点

翻って日本では、再び官民ファンドが注目を集めている。高市政権はこの7月に発表した「骨太の方針」で、「日本成長戦略」における戦略分野として、防衛産業、造船、デジタル・サイバーセキュリティー、人工知能(AI)・半導体など、17の戦略分野を挙げ、2040年までに、累計370兆円の官民投資を行う方針を示した。この17分野の一つにコンテンツが挙げられている。

日本のコンテンツ輸出といえばアニメがその中心である。日本アニメのファンは世界的な広がりを見せ、日本のアニメは、国際的なアニメ市場の中でも一定のプレゼンスを持つまでになっている。他方で、実写コンテンツに関しては、日本映画にしても、テレビ番組にしても、これまで国内市場を対象にビジネスを展開してきたこともあり、海外市場で存在感を示すまでに至っていない。そのような中にあって、インターネットの普及・浸透に伴うメディア環境の変化は、実写コンテンツの流通システムを大きく変えようとしている。

特にNetflixなどグローバル展開をする動画配信事業者の著しい伸長は、日本国内の実写コンテンツ制作者たちの脅威であり、今回、高市政権がコンテンツを戦略分野に組み込んだことを歓迎する放送事業者や制作会社、映画会社は少なくない。しかし、韓国の例を見るまでもなく、問われるのは長期的な視座に立った構造改革であり、責任の所在を明確にした強いリーダシップである。

その意味において、クールジャパン構想が破綻に至る構造的問題の究明と責任の所在を明確にすることこそが、今回の官民投資で成果を上げる一歩につながるのではないだろうか。それがひいては、持続可能な構造改革につながると思えるのである。

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