メディア界の風雲児T・ターナー氏が死去 CNNを世界的なニュース専門局に

この5月6日、テッド・ターナー氏が死去した。同氏の名を世界に知らしめたのは、何と言っても1980年の24時間ニュース専門チャンネル「ケーブル・ニュース・ネットワーク(CNN)」の立ち上げである。

ターナー氏は父親の看板広告事業を引き継ぎ、70年にテレビ局を買収。これが同氏の名を冠したメディア複合企業「ターナー・ブロードキャスティング・システム(TBS)」の礎(いしずえ)となった。地元アトランタの人気野球球団の試合などを武器に、当時、全米で急成長するケーブルテレビに、自社のチャンネルを、衛星回線を通じて提供することでTBSは急成長を遂げる。ターナー氏が、この勢いに乗ってスタートしたのが、CNNだった。

テレビ・ニュースでは、3大ネットワークが絶大な支持を集めていた時代に、アトランタに本拠を置く新興メディア企業が始めたニュース専門チャンネルということもあって、当初は人員も装備も貧弱で、CNNを「チキン・ヌードル・ネットワーク」と揶揄(やゆ)する声があるほどだった。

ところが、1986年1月28日にスペースシャトル「チャレンジャー」が打ち上げ直後に爆発、乗組員7名全員が死亡する事故では、CNNが現場中継するなど、ニュース専門局としての存在感を見せつけることになる。決定的となったのは、91年の湾岸戦争で、米メディアでは唯一、CNNのピーター・アーネット記者がバグダッドから現地報告を果たしたことで、世界的にもその地位を確立していくことになる。

日本でも、CNNとテレビ朝日が提携。都内のホテルで、外国人滞在客向けに英語の館内テレビ放送を提供してスタートしたテレビ朝日傘下のJCTVが、84年にCNNの番組をホテルや大使館などに提供。テレビ朝日でもCNN関連番組を始めることとなる。海外ニュースの需要が高まり、NHK─ABC、TBS─CBS、NTV─NBCと、日本のテレビ局と米3大ネットワークとのニュース提携が確立していく中で、やや後れを取ったテレビ朝日が選んだのがCNNだった。

日本でも1990年代に衛星放送/ケーブルテレビによる多チャンネル時代が到来し、CNNは、BBCと並び海外のニュース専門チャンネルとしての存在感を高め、日本でも知られるようになる。いわば多チャンネル化に伴う放送サービスの多様化を具現化する象徴的存在としてCNNは日本に根付いていったとも言えよう。

TBSとタイム・ワーナーとの合併

前後するが、ターナー氏は、1995年に立ち上げたCNNを含むメディア複合企業のTBSを、タイム・ワーナーの傘下に収め、自身はタイム・ワーナーの副会長に就任することを発表。これは、ディズニーによるABCの買収など、メディア資本の巨大化の動きを誘導することになる。

ただ、そのようなメディア資本の再編が進行する中にあっても、CNNはニュース専門チャンネルとしての存在感は揺るがないばかりか、国連など、国際的な意見調整の場において、BBCと並んで、国際世論の可視化に、少なからず影響を与えるニュース・チャンネルとして、その重要度を高めていくことになる。

個人的な話をすれば、2000年秋から1年間、米コロンビア大学に滞在していたが、その間、学内で毎週行われていた国際政治に関する小さな勉強会に、ホストを務めるコロンビア大学の教員たちが、定期的にゲストスピーカーとして招いていたのがCNNの記者たちだった。開局からわずか20年で、米国内での報道機関としてのプレゼンスを確立していると感じたことを記憶している。

トランプ大統領とワーナーの買収劇

ところが、今、そのCNNの存在を脅かす事態が起こっている。

この1月、パラマウント・スカイダンスによるワーナー・ブラザーズの買収が発表された。ワーナー・ブラザーズの買収案に最初に動き出したのはNetflixで、同社はワーナー・ブラザーズからCNNを切り離して買収する案を進めていた。そこにパラマウント・スカイダンスが参戦。パラマウント・スカイダンスは、CNNを抱えたままのワーナー・ブラザーズの買収を提案。パラマウント・スカイダンスとNetflixとの買収額競争の過程で、最初に提案したNetflixが降り、パラマウントが競り勝った格好で終結した。

この買収劇で注目されたのが、パラマウント・スカイダンスのCEO・デヴィッド・エリソン氏の存在。同氏の父親は、オラクル創業者のラリー・エリソン氏で、トランプ大統領に非常に近い関係とされる。

他方で、トランプ大統領は、自身に批判的なメディアに対して、「フェイク・ニュース」などと罵(ののし)ることが日常茶飯事化しているが、その筆頭として、常に標的にされているのがCNNであり、トランプ大統領が、記者とやり取りする場などで、CNNの記者を罵倒(ばとう)するシーンは、日本でも報じられている。すでにデヴィッド・エリソン氏は、CNNを傘下に収めれば、その編集方針の変更を示唆する発言をしている。

この4月23日に開かれたワーナー・ブラザーズの臨時株主総会で、パラマウント・スカイダンスによる買収受け入れが承認された。この買収案には、ハリウッド・スタジオの寡占化を招くなどとして、多くのハリウッド・スターが反対を表明しているが、この後、当局の審査が通れば、巨大複合メディアが誕生する。トランプ大統領の政権下ということもあり、当局の審査過程で、この買収が拒否されることはないと見る向きは多いという。

ターナー氏は、その型破りで大胆な言動から、「マウス・オブ・ザ・サウス(南部の大口たたき)」などとあだ名されたが、CNNを国際世論に影響を与えるまでの報道機関に育てたのが、ターナー氏の功績であることは間違いない。TBSがタイム・ワーナーと合併した後も、ターナー氏はインタビューなどで、しばしばCNNへの特別な思いを語っていた。今回の訃報を受け、CNNの現CEOは、在りし日のターナー氏を振り返り、バスローブ姿で報道局内を歩き回っては「その日のニュースについて議論しようとしていた」とのコメントを出し、そのCNNへの愛情を紹介している。

トランプ大統領に象徴されるように、SNS上で政治的メッセージが発信されることが日常的になる中にあって、合理的な議論のできるメディアをどう担保できるかが問われている。その意味でもターナー氏の残したものは大きい。

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