ローカル放送局の「再編」に一石 総務省の「1局2波」案の〝衝撃〟

このところ、ローカル民放局の現場では、放送局の「再編」に向けた動きが本格的に起こるのではないかと、戦々恐々とする声がささやかれているという。

そのきっかけは、この2月に開催された総務省「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」での議論である。事務局より示されたこれまでの論点整理案では、ローカル民放局の経営環境の悪化がより厳しくなる中、視聴者に多様な放送サービスを提供し続けるために、同一エリア内でも、テレビ放送を行う事業者が複数の電波を提供できるように「同一放送対象地域内の複数局の支配を認めるべきではないか」という、いわゆる「1局2波」案が示され、参加した検討会メンバーからも、おおむね了承する意見が相次いだという。

放送における多様性、多元性、地域性の確保の観点から、これまで同一エリア内で、一事業者で複数のテレビ放送波を有することは、原則、認められてこなかった。他方において、インターネットの普及・浸透によって、メディア利用者の「テレビ離れ」が進むとともに、これまでのテレビ・ビジネスの在り方が大きく揺らぐ中で、民放テレビ局の経営環境は、大きく変容しつつあるとされる。

特に、その影響が厳しく出ているのがローカル民放テレビ局で、全国的に進む人口減少の影響を大きく受けるとともに、在京キー局などに比べても、ネットなどへのビジネス展開が遅れ、収益の多角化が進んでいないとされる。他方で、同検討会議でも指摘されるように、ローカル民放局は地域社会における重要な発信拠点であり、地域文化の醸成に大きく貢献してきたこと、また、災害時などにおけるライフラインとなることなど、まだまだ地域社会におけるそのプレゼンスは大きい。

そのような中にあって、今回の提言は、マスメディア集中排除原則を緩和し、「1局2波」を認めることにより、ローカル民放局の経営の安定性を図ろうとするものである。この検討会での議論が報じられると、では具体的にどのような再編が起こり得るのか、経営環境の厳しいローカル民放の現場ほど、この「1局2波」案に大きく反応した節がある。

沖縄の経験から何を学ぶか

さて、この1局2波を他に先んじて、例外的に認められてきたエリアがある。沖縄では、テレビ放送を開始していた琉球放送(RBC、以下同)が、沖縄県内3局目の民放テレビ局の開局に積極的に動いて、1995年に琉球朝日放送(QAB、以下同)の開局を先導したとされる。QABは、平成に入って開局したいわゆる「平成新局」で、郵政省が進めた「民放4波化」政策の中で開局が準備されたが、沖縄エリアの経済力の小ささから、当初から開局後の経営環境の厳しさが予想されていた。

米軍統治下の沖縄で、最初に放送事業を立ち上げたRBC、人材、経験も豊富で、また、朝日新聞と関係が深い地元紙の沖縄タイムス社とも資本関係にあった。QABの開局に当たっては、送信所や中継局、支社の施設管理や送出マスターなど、ほとんどの管理運営業務をRBCに委託する形を取り、社屋も、那覇市久茂地にあるRBC本社ビル内のフロアを借りてQABが入居する形で開局。今日に至っている。ちなみに、RBCとQABが入るビルの隣に、沖縄タイムス本社がある。

QABの開局から10年ほどした頃に、RBCのご出身で、当時、QABの報道の幹部となられていた方に、それまでのQAB社内の様子を伺ったことがある。その方の話では、QABの開局当初は、報道部員も含めRBCから出向・転籍する形でスタッフがそろえられたが、時がたつにつれプロパー社員も増え、また、テレ朝系列で連携しての取材や素材交換などが増える中で、現場レベルでは、社屋は一緒でも、ライバル社という意識が強まっていったという。それは営業部門においても同様なようで、スポンサーとの向き合いでは、RBCとは競合関係にあるわけで、自ずとその距離は広がっていったという。そのようなことを総合すると、沖縄のケースを参考にすれば、同一エリア内での「1局2波」が、そのエリアの視聴者に対して、多様な放送サービスを提供しつつ、厳しい経営環境と向きあう方策となる可能性はあると言えるのかもしれない。

複数の再編案の提示

もちろんこれまでも、ローカル民放の経営環境の悪化を想定して、さまざまな方策が取られてきた。特に2007年の放送法改正で制定された認定放送持株会社制度は、在京民放キー局を中心として、系列によってローカル局の経営を支えることを念頭にした制度である。

この制度も、その後、認定放送持株会社にぶら下がることのできる放送局数の制限が緩和されるなど、その運用がより柔軟にできるようになっている。ただ、実際にこれらの制度運用を念頭に置きながら、系列内の近隣エリアの局の経営を統合していこうとする試みも、既になされているが、実際のところ、その成果が分かるほどうまくいったという事例は見当たらない。

それらの試みの中で、難しい課題として浮上したのは、地元新聞資本との関係である。近代日本のメディア産業史において、新たなメディア・ビジネスのインキュベーター的役割を果たしてきたのは、明らかに新聞資本であり、そのため、ラジオ局にしても、テレビ局にしても、ケーブルテレビ局にしても、その株主に新聞資本が名を連ねているケースは少なくない。

他方で、日本の新聞資本は、戦前の「新聞統合」によって、多くの県で、地方紙は1紙に整理された経緯がある。ローカル民放テレビを、系列により統合しようとすれば、地元新聞資本との関係からの反発が少なからず起きるであろう。他方で、今回の同一エリア内での1局2波を認める案に関しては、地元ローカルテレビ局の開局時に資本を出してきた地元地方紙が発言する場が増えるかも知れない。

ただ、正直、エリアによって事情が、それぞれ異なっており、今回の提案でどのエリアでもすんなりうまくいくとは思えない。それでも、あえてこのような論点整理がなされたのは、ローカル民放局の存立を維持していくための手段を複数用意して、それぞれのエリアでの経営環境にあった方策を選ばせるということとも捉えられよう。いずれにしても、ローカル民放局の経営者たちは、大きな決断を求められることになるのではないか。

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