通信とコンテンツ、一気通貫の構図 ドコモ、WOWOW提携に見える未来

6月16日にNTTドコモとWOWOWの資本業務提携が発表された。ドコモはWOWOWの第三者割当増資を引き受け、同社の株式を2・8%保有する有力株主となる一方で、両社で合弁会社を立ち上げて、ドコモが行ってきた動画配信サービス「Lemino(レミノ)」を運営するという。

今回の第三者割当増資後のWOWOWの株式の保有比率で言えば、ドコモは上位7番目に位置付けられる。民放キー局が主要株主として顔を並べる構成は変わらないものの、その一角にドコモが加わり、より発言力を高めることになる。もちろんこのような判断に至った背景には、メディア環境の激変がある。

今回の提携を考察する前に、WOWOWの歩んだ道のりを振り返っておこう。

日本最初の有料衛星放送

WOWOW(旧名称・日本衛星放送株式会社)は、1991年に本放送をスタート。衛星放送時代の幕開けとして、NHKがBS放送の試験放送を開始したのが84年。本放送に移行したのが89年である。NHKが先鞭(せんべん)をつけた衛星放送という新しい潮流に遅れまじとする在京民放各局なども共同出資しつつ、経団連が主導する形でスタートしたのがWOWOWであった。

衛星放送に関しては、次世代の放送サービスの実験場という役割も担っており、当時、その未来像として掲げられていたのがハイビジョン=高画質放送であった。日本の放送界は、アナログ・ハイビジョンの普及が当面の目標であったが、世界的な潮流としてデジタル化が先行。日本の放送界も否応なくその流れに飲み込まれていく。BS放送に関して言えば、2000年から在京民放キー各局が参入する形でデジタルBS放送が開始。WOWOWもデジタル放送へのシフトを余儀なくされる。

ただ、03年からスタートした地上デジタル放送は、視聴者にデジタル放送受像機への買い換えを求めるもので、その新しい受像機には、ほぼもれなくBSデジタル放送の受信機能が付いてくることから、WOWOWの加入も右肩上がりを維持した。

その間にWOWOWは、いまに続くオリジナル・ドラマ枠の「ドラマW」を開始するなど、スポンサーの意向などに配慮しない有料放送ならではのコンテンツ製作の強化にかじを切っていく。

06年にはNHKで経営企画などの経験もある和崎信哉氏がWOWOWの経営陣に迎え入れられる。同氏は社長を務めた07~15年の間に、WOWOWのオリジナル・コンテンツを戦略的に強化することに努めた。自社でハンドリングできるコンテンツを確保していれば、多様な編成戦略を立てられる。例えば洋画などを外部から調達する場合であっても、コンテンツ調達の取引において、足元を見られることなく交渉ができるというメリットもあったという。

07年には、劇場用レーベル「WOWOW FILMS」をスタート。また、TBSや東海テレビなど、地上波放送局と連携する形でドラマ製作にも着手。コンテンツ・メーカーしての色彩を強めていった。他方で、地上テレビ放送がデジタル放送に完全移行するとされていた11年には、WOWOWの3チャンネル全てをフルハイビジョン化している。

このように有料多チャンネル放送として日本の放送事業に新たな地平を切り開いたWOWOWだが、10年代に入るとインターネットの急伸、スマートフォンの普及といったメディア環境の変化の中で、有料多チャンネル放送の加入が頭打ちの状態になり、新たな視聴者獲得の道を切り開くことが急務となっていく。それがネット上でのコンテンツ展開である。WOWOWは、12年に番組配信サービス「WOWOWメンバーズオンデマンド」を、19年には加入者全てが視聴できる「WOWOWオンデマンド」をスタートさせるなど、ネット展開に注力していくことになる。言わば、コンテンツ・メーカーとして性格を強化する一方で、衛星放送という出し口に依存する構造からの脱却を模索することになる。

NTTグループのコンテンツ展開

さて今回、WOWOWへの本格的参入に名乗りを上げたドコモはどうか。1980年代の電電公社の民営化以降、しばしば「通信放送の融合時代には、通信が放送をのみ込む」といった未来図がささやかれてきたが、日本最大の通信事業者であるNTTにおいては、その参入には慎重だったと言える。唯一、本腰を入れたのは11年の地上放送のデジタル化によって空いたV-High帯域を使って、12年4月から始めた携帯端末向けマルチメディア放送のNOTTVである。ただしこのNOTTVは、携帯市場で急伸するiPhone端末にドコモが参入することを決断することと連動する形で、16年6月をもってサービスを終了する。

他方、95年、住友商事と共にJ:COMを立ち上げたTCI(現リバティメディア)が、J:COMからの撤退にあたって、その後を継いで、住友商事のパートナーになったのは、KDDIだった。KDDIからすると、競合社であるNTTグループとの対抗戦略上、J:COMの所有はKDDIの弱みであった地域通信網を持つことになる。加えてJ:COMは、ケーブル/配信向けのコンテンツ配給部門であるメディア事業部門(旧「ジュピター・プログラミング」)も傘下にある。昨年夏、経営環境の悪化から廃業を決めたBS松竹東急を居抜きの形で買い取り、JCOMBSとして広告放送を始めたのもJ:COMである。言わばKDDIは、通信インフラとコンテンツ展開という一気通貫の構図を構築しつつあるようにも見える。

そのように見ると、ドコモのWOWOWへの本格参入は、WOWOW本体がよりコンテンツ・メーカーとしての色彩を強める一方で、ドコモが育ててきたレミノというプラットフォームへのコンテンツ供給源としてWOWOWを取り込むことで、より強固な通信インフラとコンテンツ展開の連携の構図を生み出すことができよう。

先のNOTTVで見たように、ドコモは、NTTグループの中でも、コンテンツ戦略を積極的に進めるポジションにある。

数年前から韓国の地上波放送局がスタジオ部門(コンテンツ製作部門)を独立させたり、この春、フジテレビが、フジ・メディア・ホールディングスとの関係で、ハード、ソフトの分離を発表したりするのは、コンテンツ・メーカーがその出し口を多様化していくための体制作りと見ることができよう。

今回のドコモとWOWOWの資本業務提携もそのような流れの中にあるといえるのではないか。

文字サイズ