地方議会の〝ムラ社会〟的体質は、なかなか直らないものだ。熊本県八代市議会ドンの逮捕と福岡県議会議長の議員辞職のニュースを聞いたとき、政治とカネ、権力構造に関わる古い体質が残っていることにまたまた気付かされた。地方議会となれば、全国紙以上に地方紙の果たす役割も大きい。

良心眠らせた「天の声」

八代市議会と福岡県議会の出来事の共通項は「ドン」と「忖度(そんたく)」だ。

ちなみに、ドンはラテン語のdominus(主、あるじ)に由来し、スペインでは貴族に対する尊称(小説の主人公ドン・キホーテ)であり、イタリアでは主として聖職者への敬意を表わす称号だったが、貴族や有力者への敬称ともなり、転じてマフィアのボス(映画ゴッドファーザーのドン・コルレオーネ)を指すようになる。

八代市の庁舎建て替えに関して最初報じたのは、今回も新聞メディアではなく週刊文春だった。昨年10月1日の電子版で「171億円官製談合を告発!」とスクープ。これを受けて八代市議会は12月、百条委員会を設置して調査に乗り出した。その途中で熊本県警と警視庁が動き、今年5月7日に成松由紀夫市議と元市議、建設業者の3人が逮捕された。

成松市議は日本大学相撲部出身で大相撲の幕下まで行き、引退後は故郷の八代市に戻ってちゃんこ屋を経営。2005年に市議に初当選し、市議6期21年。八代市議会の「ドン」(熊本日日新聞)と呼ばれ、中村博生前市長をしのぐ勢いから「陰の市長」(熊日)あるいは「影の市長」(読売新聞)と呼ばれ、成松市議が強引に持ち込む案件は「ドスコイ案件」(朝日新聞)と恐れられたともいう。

そうそう日大相撲部と言えば、日大を牛耳り、追放された大物がいた。何かと自分のちゃんこ屋に関係者を呼び付けるやり方や〝押し〟の一手で目的を実現する手法も酷似している。

八代市庁舎は16年熊本地震で崩壊し、国の補助金を得て再建された。まず入札に関して、「分離分割発注」方式による入札と見られていたが、いきなり「総合評価方式」に変わった。担当者には「天の声によるものであり、一言一句変更することなくこの案に従って事務を行う」よう上司から指示があった。このくだりは報道陣も入れた百条委員会で担当者が証言したものだが、なぜか成松市議らが逮捕された翌日の5月8日付熊日や朝日で詳しく報じられた。

もちろん各紙とも、その後の取材を踏まえて、その原案は受注業者となる前田建設工業が立案したものであり、成松市議が担当課長に渡し、渡された課長は副市長に上げ、副市長が財政部長(いずれも当時)にそのままの文言で渡したことを伝えている。前田建設工業の意図は、有力な入札業者候補だった大手ゼネコン鹿島を実質排除するためだったという。

不思議なのは、いまだに自分が「天の声」を発したと認める人物がいないことだ。元市長も元副市長も百条委員会で証言を求められたが、〝知らぬ、存ぜぬ〟の一点張り。彼らは成松氏を〝ドン〟に仕立て上げ、自分たちの役割を極小化することで逃げ切りを図ろうという姑息な手法と見受けた。

「カツアゲ」「みかじめ料」の世界

今年の新聞協会賞は西日本新聞の「歪んだ関係─福岡県政を追う」に与えられた。受賞理由に、①海外視察費が最大10倍に膨張していた実態②職員による組織的なパーティー券購入③県議会棟への取材規制④県議会での質問案の横流し─などを次々にスクープしたことが挙げられている。さらに「議会の不透明な慣行と県による過剰な忖度という構造的な問題を指摘した」と評価された。ブロック紙の面目躍如である。

西日本新聞が福岡県議の海外視察の異常さを初めて報じたのは、昨年12月22日。筆者はこの時はあまり注目しておらず、その後、県職員によるパーティー券購入が報じられ、こんなバカなことをやる県があるんだと妙に感心していた。

朝日が7月7日付の2社面で「元県議長『就任前に1000万円払った』」という記事を見たときは衝撃を受けた。西日本を購読していないので知らなかったが、西日本は5日付で「福岡県議2人が20年の正副議長就任に際し、自民県議団の幹部から約2750万円の支払いを求められ、現金で渡したと西日本新聞の取材に対して証言した」と特報しており、朝日の記事はその後追いだった。

証言した吉松源昭県議が7日の記者会見で「人の弱みに付け込んだカツアゲ、みかじめ料的な要求だった」と発言したのには再び驚かされた。福岡県議会はやくざ社会かアジール(治外法権)の世界かと思わされた。

「カツアゲ」の当事者は中尾正幸副議長だったが、県議や県職員が異常な忖度をしていた相手は、「福岡県議会のドン」(読売など)と言われた蔵内勇夫議長(県議10期、39年)だった。蔵内氏は「日本で一番悪い男と言われている」と自虐的に語っていたが、議員辞職は拒んだ。中尾氏が先に議員辞職し、やっと8月25日になって議員辞職した。読売は27日付で「議会に忖度 脈々と/『ドン』退場 刷新なるか」との記事を掲載した。

テレビ・新聞も〝ドン〟に加担?

福岡県政において蔵内氏が権勢を振るった背景に「テレビや新聞の加担があったのではないか」と指摘するのは、元関西テレビ記者で神戸学院大学准教授の鈴木洋仁氏(8月18日付プレジデントオンライン)で、元県政担当記者が「蔵内氏から県の政策方針が書かれた『紙』をもらえるか否か、もらえないと『特オチ』なので、デスクから激しく叱責される」と明かしたという。

ノンフィクションライターの勢野進氏も「マスコミも蔵内氏への忖度が働き、県議会の不正の噂があっても深く追及してこなかった」との県政担当記者の証言を伝える(5日付プレジデントオンライン)

今回、西日本の記者がこうした〝蔵内支配〟に抗して書いたとすれば高く評価すべきだが、それ以前の十数年に及ぶ蔵内氏の跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)を許した責任の一端を負うべきか否か、筆者にはよく分からない。

他の地方議会にはまだまだ〝ドン〟がいるのではないか。ドンへの忖度政治もまた厳しくウオッチしなくてはなるまい。地方マスコミが果たすべき役割は大きそうだ。

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