熊本在住十数年。2度目のマグニチュード(M)7、震度7の地震に見舞われた。前回は地震が起きた4月から約3カ月たって8月号にやっと書いた。今回は7月28日の発災から約2週間の地震報道を地元で読める紙面で検証してみた。
イ、死者数の齟齬
地震の大きさを端的に示すのが「死者数」だ。今回の「令和8年熊本地震」では、発災翌日の29日付朝刊では、当然ながら「不明者多数」(熊本日日新聞)、「閉じ込め多数」(朝日新聞、読売新聞)と具体的な死者数の報道はなかった。30日付朝刊では、朝日、読売が熊本県の発表を基に「12人」との見出しを取ったのに対し、熊日は県発表に宇城市発表の2人を加えて「14人」と報じた。
死者数発表に異変が生じたのは30日のことだった。熊本県は同日午前9時半からの対策本部会合で、午前7時半時点で確認された死者数を「17人」と報告、発表した。ところが約1時間後に記者会見した木原稔官房長官は、午前6時半時点で確認された死者数を「28人」と発表した。木原長官は、その中には「災害との関連を調査中の人を含む」と断りを付けたが、県の発表と大きく違う数字にびっくりした。
死者数には、消防、警察、市町村、県と幾つものソースがある。県警は主として発災後に死亡した者を単純カウントし、警察庁に報告する。市町村は住民基本台帳と照合して「住民」として確認された死者数をカウントし、県に報告する。内閣官房危機管理室は、警察情報を基に「28人」とし、県は市町村情報から「17人」とした。死者数の齟齬(そご)に熊本県側は動揺し、結局、官邸の基準に合わせると方針転換。夕方の発表以降は死者数の齟齬は解消された。
ロ、写真報道力
震災報道においては、テレビ映像の報道の力が大きい。新聞においても写真報道は大きなウエートを占める。7月29日付朝刊において注目したのは空撮写真だ。
熊日は①爆発のあったイオンモール熊本(2枚)②折れた日本製紙八代工場の煙突③高速道路の切断④脱線した貨物列車⑤崩落した橋─の計6枚を掲載。「共同通信社ヘリから」とした(地上の写真を含め計19枚)。朝日は①イオンモール②隆起した高速道路③倒壊した煙突─の3枚を載せたが、いずれも「九州朝日放送提供」(他の写真を含めて計10枚)。読売は①イオンモール②崩落した橋③倒壊した八代宮④炎上する集合住宅⑤大きく倒壊した住宅─の5枚だが、いずれも「ⒸNNN」と日本テレビのクレジット付き(他を含めて写真は計13枚)。朝日、読売とも翌30日付は「本社ヘリ」からの空撮写真を掲載したが、早い段階で九州までヘリを飛ばす力はなかった。
ハ、イオンモール「爆燃」「爆轟?」
イオンモール熊本(嘉島町)では爆発事故が起きた。29日付朝刊の写真は圧倒的な迫力があったが、記事は薄めだった。「イオン爆発か」(熊日)、「イオンで崩落 閉じ込め多数」(朝日)、「イオンモール崩落」という見出し以上の情報はなかった。
翌30日付朝刊では、各紙が一斉に専門家を動員して原因究明を試みた。熊本大学の田中茂教授は「爆発的な燃焼である『爆燃』」(熊日)と指摘し、東京理科大の桑名一徳教授は「爆発の伝播速度が音速を超えるような爆轟(ばくごう)」の可能性を「考えづらい」としながらも排除はしなかった(朝日)。
熊日と読売は全国LPガス協会(東京)に取材していて、協会側は「大きな揺れを検知すれば、供給を遮断する仕組みがある」と聞き出しているが、肝心のLPガス供給業者への取材はなかった。今回、この自動遮断装置が作動したのか、しなかったのか。当事者に取材しようという姿勢が感じられなかった。熊日8月5日付朝刊には、「LPガス供給会社」のコメント(木で鼻をくくったような回答)が載ったが、会社名はなぜか明記されなかった。
LPガス供給業者名が分かったのは5日になってからで、福岡県久留米市の「福岡酸素」だった。同社が高圧ガス保安法に基づく報告書を経済産業省に提出したのを受けて、同省が発表したためで、自主的取材は生ぬるかった。
木原官房長官は7月28日の記者会見で「建物内にガス臭との報告があった」と発表した。それならガス臭に気付いた誰か一人でも「ガスだ」「逃げろ」と叫ぶべきだった。どだい人間は正常化バイアスがかかっていて、叫ぶなどの異常な行動をためらう。控えめな行動は平時のマナーとしては良いが、危機事態においては逆作用する。今回の爆発から得られる教訓の一つだ。
その間、イオンモール関係では、雑貨店「ハビタ」の店員が一度避難した後に、店の上司から「売上金を金庫に入れてほしい」と指示され、店に戻ったため爆発に巻き込まれて死亡した問題が8月3日付熊日で大きく取り上げられ、朝日、読売も翌4日付朝刊で後追いした。イオンモール熊本の親会社・イオンの社長は7月29日に記者会見して、イオン側の指示を否定していたが、8月11日になってイオン側の現場判断で一時入館を認めたと発表した。
公平を期して言えば、来客約3000人と従業員1200~1500人全員を発災後、いったんは施設から整然と避難させたことは、きちんと評価しておかねばなるまい。避難後に再び建物内に入ることを容認したことは画竜点睛(がりょうてんせい)を欠く所業だった。
ニ、車中泊とガソリン不足
熊本県災害対策本部は8月2日、車中泊をしていた70歳代女性が熱中症の疑いで死亡したと発表した。近年の災害時には避難所避難と並んで軒先避難や車中泊が多い。酷暑被災下での車中泊の大きな理由は車のクーラーをかけて夜を過ごすためだ。
そこでの問題はガソリンを多く消費し、給油が必要になることだ。1日付熊日は「ガソリン求め長い列」と報じた。TBSは8日夕の番組で、車中泊で亡くなった女性の息子を取材。車中泊の母親のためガソリンを携行缶に入れてもらおうとガソリンスタンドを2軒回ったが、どこも売ってくれなかったことを明かすとともに「被災者のもとへガソリンが届く仕組みを作ってほしい」と訴えた。
自衛隊は直ちに給水車を出したが、給油車も出すべきではないか。戦場で戦車や戦闘車両に給油するための車両を装備しているはずだ。災害救助に活躍している自衛隊だからこそ、給水に加え緊急給油すれば、被災者にもっと喜ばれるはずだ。