選挙結果を左右するSNS情報 AIの功罪を踏まえて適切な対応を

沖縄県知事選挙が終わった。一部では3選を狙った玉城デニー県知事の敗北は、SNSによる執拗な攻撃が影響したとされる。米国で2026年中間選挙を考える上で、候補者や政党の政策が、有権者にどれほど正確に伝わっているかは重要な焦点となる。有権者がどういった情報環境の中で投票について判断するのかという問題に直結する。それに対するメディアと人工知能(AI)の使い方について検証してみたい。

現在、米有権者にとってSNSは重要な情報源の一つ。候補者や政党だけでなく、主要メディアが発信するインスタグラムのリール、TikTokなどの短いビデオは、ほぼ主要な情報源と言って間違いない。加えてインフルエンサーのⅩへの投稿、一般支持者によるコメント、ビデオなど、膨大な量の情報がSNSから送り込まれてくる。主要メディアは膨大なSNS、つまり候補者や個人が発信する情報空間で戦っていることになる。そこには誤情報や偽情報が混在している。

「生成AI元年」選挙

しかも26年の選挙は、これまで以上にAIの存在が大きく、「生成AI元年」の選挙と言っていい。ビデオでは、候補者が言っっていないことを言っているように見せたり、大物政治家が特定の候補者を支援しているように見せたりすることは可能だ。テキスト、つまり投稿の文章については、ビデオ以上に短時間で大量の偽ニュースやSNS投稿を作ることができる。

SNSやAIによって広がる誤情報、偽情報の影響を小さくするために、米国ではどのような対策が取られているのか。

一つは、MetaなどSNSプラットフォーム自身による対策である。Metaは、FacebookやInstagramにおける政治広告について、広告費を誰が支払ったのかを表示している。広告であり、中立な情報やニュースではないことを示している。また、AIによって生成・加工されたコンテンツは、AIによる加工であることを認識できるよう表示している。

さらに、選挙に関する情報を検索した利用者を、州や地方の選挙当局などが提供する公式情報へ誘導する仕組みもある。例えば投票所、投票時間、郵便投票、投票登録の締め切りなどについて、SNS上で見つけた情報だけを信じるのではなく、最終的には公式の一次情報を確認するというルートを確保する考え方である。

しかし、こうした努力が利用者に届いているのかはやや疑問だ。私はFacebookを見ていて、候補者の公式キャンペーンや主要メディアのアカウントが発しているのかは、チェックしている。職業柄、発信元のアカウントに「認証バッジ」があるかないかなどチェックする習慣がある。それは投稿されたテキストやビデオが信頼できるのかどうかを知る「最初の一歩」にすぎない。ところが、一般のユーザーはそこまでの知識はなく、刺激的な情報があれば「いいね」をしたりシェアをしたりするのは間違いない。

さらに、SNS企業は、かつてのように「この情報は誤情報である」と企業自身が判断し、ファクトチェックを行ったり、投稿を削除したりすることに必ずしも積極的ではなくなっている。SNS企業が情報の真偽を判断することには、表現の自由との関係や、企業がどこまで政治的な判断をするべきなのかという微妙な問題もある。

今年の中間選挙では「SNS上の情報をすべて管理する」というよりも、誤った情報が流れることを前提にしている。その上で利用者が信頼できる情報源にアクセスできる仕組みをどう作るかが重要になっている。特に警戒されているのが、AIとSNSが組み合わされることである。

AIとSNSの合体が招く恐ろしい世界

2024年の大統領選挙でもあった例だが、「この投票所は閉鎖された」「投票時間が変更された」「選挙職員が投票用紙を破棄している」といった偽の情報をテキストではなくAIで動画にすることができる。それをSNSに投稿し、インフルエンサーなどが取り上げれば、短時間で大量の有権者が影響を受ける可能性がある。

さらに恐ろしいのはAIを使えば、一つの偽情報から、異なる文章や画像を大量に作り出すことができる。一定のフォロワーだけではなくて、さらに多くのフォロワーにリーチすることになる。

では、米メディア自身はAIをどのように利用しているのか。米メディアでは、AIはすでに特別な技術ではなく、ニュース制作を支える道具の一つになりつつある。

報道現場では、文字起こし、翻訳、文書の要約、情報収集、データ処理、見出しの提案など、記者の仕事の補助にAIが利用されている。重要なのは、「AIが記事を書く」ということは容認されていない。

AP通信はAIの利用について、初期段階のリサーチ、文書の要約、文字起こし、翻訳、見出し案など、さまざまな用途を記者やデスクに認めている。一方で、最終的な事実確認、編集、ニュースとして何を伝えるかという判断は人間が担うという原則を明確に公にしている。

AIは大量の情報を短時間で処理することができる。しかし、情報の処理ができても、その情報が社会にとって重要かどうかを判断することはできないというのがAPの判断だ。ジャーナリストに求められるのは、情報の量を処理することだけではない。「何が事実か」「その情報にはどのような根拠があるのか」「誰が発信したか」「社会にとって何が重要か」を判断することである。その意味で、AIはジャーナリストの代わりというより、ジャーナリストの能力を拡張する道具といえる。

さらに、AIを使ってAIが作った偽情報を検証するという動きもある。APは「AP Verify」という検証システムを導入した。これは、SNSなどで拡散されている写真や動画について、画像分析、位置情報の推定、文字起こし、逆画像検索などを組み合わせて、そのコンテンツが本物かどうかを調べるための仕組みである。

つまり、AIによって偽情報を作る側だけが技術を持っているのではない。ジャーナリストの側もAIを利用して、膨大な情報の中から疑わしいコンテンツを発見し、検証する能力を高めようとしているのである。

AIによる編集現場への圧力は強まっている。しかし、正確な情報を残し、歴史的な経緯の中で位置付けし、伝えていくことで記録につながるという作業はいまだAIにはできない。編集現場はそれを学ぶべきではないだろうか。

文字サイズ