「『偽情報禁止』明記を改革の起点に」 選挙SNS対策法 落合貴之衆院議員に聞く
選挙の際の交流サイト(SNS)に投稿される偽情報対策を強化する改正関連法が、7月13日に参院本会議で可決・成立した。改正されたのは、公職選挙法と情報流通プラットフォーム対処法の2法。公選法では投稿者に対し偽情報・誤情報を広めない責務が初めて明記され、情プラ法ではSNS事業者(プラットフォーマー)に偽情報による悪影響を軽減する対策が義務付けられる一方、罰則は見送られた。SNSの偽情報が有権者の投票行動を大きく左右し、新聞・テレビなどのオールドメディアの影響力低下が指摘される。改正2法はそうした流れを変える起点になるのか。法改正を主導した中道改革連合の落合貴之衆院議員(東京6区)に、経緯と課題を聞いた。(聞き手は河原仁志・新聞通信調査会事務局長)
「自由な経済活動」との相克
Q 会期末に高市早苗首相の関心法案が集中してドタバタの中での法案成立でした。
落合 そうです。しかも私たちが提出した2法改正案の審議は政治改革特別委員会。ここは高市さんにとっての重要法案である比例定数削減法案の舞台でもある。副首都法案も含めて、会期末は絶対に揉(も)めモードに入る。その前に何とかしなければと6月上旬くらいから与野党協議会でエンジンを掛けました。
Q どうやって隘路(あいろ)を抜けたのですか。
落合 幸い、選挙期間中のSNS規制に対する問題意識は与野党で大きな隔たりはなかった。1年半以上続けてきたこの問題の与野党協議会でも「これだけは今国会で通しましょう」という思いが強かった。それで6月の初めだったかな、特別委に掛かっていた政治資金に関する規制強化についての審議をいったん中断して、2法改正案を1日かけて集中審議しました。
Q 選挙期間中のSNS規制について与野党協議ができた経緯を教えてください。
落合 2024年11月の兵庫県知事選でSNS上に飛び交う流言飛語や動画が有権者の投票行動に大きく影響することを目の当たりにしました。翌年1月には百条委員を務めた県議の方が自死された。全国知事会の研究会が「インターネットを活用した選挙運動に公職選挙法が対応できていない」とする報告書を4月にまとめた。こうした動きを背景に国会議員の中でも「いずれは自分たちにも降りかかってくる」「民主主義の危機だ」という思いを持つ仲間が党派を超えて集まるようになりました。特に自民党の方々は石破茂政権時代に大負けしているので当初は危機感が強かった。
Q 最初の協議会が24年12月。法案成立まで7回の会合があったそうですが、曲折はありましたか。

落合貴之衆院議員
落合 正式な会合は7回ですが、新しい分野の複雑なテーマなのでプラットフォーマーや研究者を呼んで非公式な勉強会を週1~2回重ねました。高市さんが首相になってからは自民党議員が少しやる気がなくなったように見えました。高市さんがSNSで支持率を上げてきたこともあったのでしょう。ただ、今年2月の衆院選が推進力になった。やはり野放しはまずい、という意識が与野党問わず広がったと感じています。途中、中傷動画問題がありましたが、私自身はこの改正案を通すために、政権を刺激しないように敢えて追及を控えました。
Q 法案作りの最大の焦点はどこにありましたか。
落合 一つは選挙期間中にSNSでの政治的評論に関する営利行為が禁止できるかという点です。偽情報をまき散らして完全な営利を目的としている動画や言説は禁止したい。でも一方で真面目な評論番組を作ってそれを生業にしている方も現におられる。それを一律に禁止するというのは、自由な経済活動を保証した憲法に抵触するのではないか、という相克です。もう一つは、プラットフォーマーの代表格であるGAFAがどれだけ本気になるかが焦点なのですが、やはり抵抗も強かった。結局、私たちがたどり着いたのは「偽情報を流してはいけない」という当たり前のことを公選法に明記することでした。これが実現したことは大きいと思っています。
SNS事業者間の競争促す
Q ただ、歯止めとなる罰則がありませんね。
落合 たしかに罰則はありません。一方でプラットフォーマーに対し偽情報を野放しにしてはいけないという義務を課したことで、これを根拠にプラットファーマーが露骨な偽情報を発信する者に対し営利行為の停止措置が取れるようになりました。
Q プラットフォーマーが自発的にそのようなことをするでしょうか。

落合 プラットフォーマーにとってはそうした仕事は利益につながらないし、もっと言えばコストです。偽情報かどうかを自身で調べ、停止措置を取っても法的に問題がないかをチェックしなければならない。プラットフォームを運営する企業としては後ろ向きの仕事に見えます。ただ、改正法ではプラットフォーマーに対し年1回の活動報告を求めています。どのような報告を求めるかという具体的な指針は今後総務省で詰めますが、それは外部から何件の申し立てがあり、それにどう対応したかといった内容が求められるはずです。それが業者間で比較されることになります。
Q それがSNS空間の浄化につながるのかどうか。
落合 即効性は期待できないかもしれません。ただ製造業の歴史をたどると希望が持てると思います。たとえば自動車会社の安全管理措置や環境対策はこの20~30年で飛躍的に拡大しました。それはエアバックや自動制御、シートベルトといった機能から排出ガス規制まであらゆるところに及んでいる。これらがなぜ普及したかというのは、世間の目があったからです。つまり、どこそこのメーカーは安全管理や環境に熱心だ、あそこはそうでもないという業者間の世評がブランド価値に影響して社会的信用を左右し、それが株価や購入予定者の行動にも影響するという回路ができたからです。プラットフォーマーという新しい業界にも、そうした競争原理を促す。今回の法改正はたしかに着地点としては低いところから始まったかもしれませんが、そうした未来図の起点はできたと考えています。新聞・テレビなどもそうした視点から注目し、報じてほしいと思っています。
カギ握る真偽特定技術
Q 「表現の自由」という観点からの議論は。
落合 それも焦点の一つではありました。EUは「デジタル主権」(SNS空間を制御するルールやシステム)がないと民主主義が脅かされる、というロジックで規制に乗り出している。個人の権利と公共の福祉とのバランスをどう取るか。過度な規制は「表現の自由」の侵害や言論活動の萎縮を招く。罰則が見送られたのもその懸念があり、罰則は次の段階で検討しようということになった。収益化を禁じたとしても、発信自体を規制しなければ表現の自由は守られます。偽情報についてはその限りではありませんが、投稿内容の真偽を定めるのにも時間がかかる。このあたりの論点も次の法改正のときに詰めていくことになると思います。
Q ファクトチェック機関との連携についても議論がありました。
落合 役割分担の問題ですね。今回新しく成立した2法はいわばオーダーメイドの既製品。そこに個々の事案を当てはめてうまく運用していかなければなりません。情報の真偽特定はカギを握る要素の一つです。そこにファクトチェックを専門とする機関が出てくる。いわば弁護士のような役割です。たとえばプラットフォーマーが外部からの申し立てを受けてSNS上の情報の真偽を定める際には、ファクトチェック機関を使えばよい。ただ陣容や能力、資金は誰が出すのかという問題があります。
Q 新聞各社がそれぞれ独自にファクトチェックをしている現状をどうみますか。
落合 情報の真偽を定めるにはそれなりの時間がかかる。特に選挙期間は限られており、そこで結論を出すとなると対象件数はおのずと絞られてしまう。それでは新聞各社が役割分担して共同作業でやればいいかというと、編集権の問題もある。真偽の特定は公益性の高い仕事ですが、どこが担うかとなると難しいですね。ましてや国が関わる話ではない。AI技術にも期待しているのですが、Xやメタは構造がそれぞれ全く違うのでAI対応も難しい。
Q オールドメディアの影響力低下は新聞・テレビが公選法を過度に意識して有権者の知りたいことに応えていないという背景もあるように思います。
落合 そうですね。各党を同じ行数で扱ったり、争点も両論併記したり、それが中立公正の本質なのかという思いは有権者にあるでしょう。偽情報は別として、SNSの中でのストレートな言説の方が偏っていても本質を抉(えぐ)り出しているように映る。争点設定も本来であれば新聞独自で「これが大事だ」というものがあっていいのに首相の主張することが「争点」となってしまう。SNSの情報で投票行動が左右されるのは問題ではありますが、それはオールドメディアが物足りないからだという側面も見逃してはいけない。新聞・テレビなどが自身の報道の在り方について主体的に検証して、選挙報道はどうあるべきか真剣に取り組むべきだと思います。
GAFA包囲網
Q SNS対策の海外の取り組みで参考になるケースはありますか。
落合 興味深いのはEUです。あそこは米国とは対照的にSNS規制に積極的です。デジタルサービス法(DSA:Digital Services Act)という法律があって、加盟国がそれぞれの役割を担ってSNSの世界を監視・監督しているんです。例えばフィンランドは偽情報、エストニアはサイバーセキュリティーといった具合に。一国の政府ではとても賄いきれないことをテーマごとに分担して域内全体を監視している。それぞれの国が知見やデータを積み上げるという意味では非常に有効なやり方だと思います。
Q 日本にも応用できますか。あるいはEUと連携する可能性は。
落合 なかなか難しいかもしれません。EUという枠組みや共通基盤があってこそでしょう。アジアでとなると、韓国とはできるかもしれませんが、中国とは難しい。ただ、国の単位での連携でなくとも、研究機関などが相互に補完的な仕事をしていくことは可能だと思います。法規制でEUと連携してGAFA包囲網をつくろうとの意見もありますが、GAFAから巨額献金を受けているトランプ大統領が黙っていないでしょう。
Q 選挙期間中の偽情報といえば、海外の敵対国からの情報発信も言われています。
落合 2024年のルーマニア大統領選が典型例ですね。泡沫とみられていた極右の候補者が動画アプリTikTokで有力候補を批判してフォロワーを急速に増やして当選してしまった。その後、情報機関がロシアの関与を指摘し、憲法裁判所が昨年12月に、「公正な選挙の過程が損なわれた」として選挙を無効とした。やり直し選挙でルーマニア政府はSNS投稿者に政治的立場を表明することや、投稿なのか広告なのかを明示する義務を課し、ルールに従わない場合はプラットフォーマーに5時間以内の消去を命じるなど厳しい措置を取りました。
Q 他国からの選挙介入は今回の法改正でどの程度想定しているのですか。
落合 正直言ってそこまでの対応はできていません。地球の裏側から複雑な経路で偽情報を発信されたら特定することは難しいでしょう。日本はこれまで言語の壁という、ある意味で特異な防護壁がありました。海外から来る変な日本語はすぐ分かった。でももはやAIによる水準の高い翻訳機能がその防護壁を崩してしまいました。
Q お話を伺っていると、飛躍的に進化するSNSの世界に比べて、今回の法改正で大丈夫なのかという不安に駆られます。
落合 たしかに今回の改正だけでは不十分です。ただ、「偽情報を流してはいけない」ということが明記されて、遊び半分あるいはバイト感覚で選挙期間中にちょっと儲けようかという行為には一定の歯止めがかかるのではないでしょうか。クリック数で小金を貯めようとする人に対し、プラットフォーマーが改正法を盾に収益停止措置を取ったり、ファクトチェック機関が発信者を特定したりするとその人は社会的信用を落とす。それが選挙のたびに繰り返され、実績が積み上がるとアナウンスメント効果もあって一定のブレーキになるのではないでしょうか。
Q 今後はどういう予定ですか。
落合 この改正法は来年3月施行され、その直後に統一地方選があります。まずはそこでどの程度の効果があったか、何が足りないかを見てみたい。それから2年後にはプラットフォーマーからの第1回報告書が出ます。その内容、各社の姿勢を検証します。次の法改正はその後に考えています。
落合貴之氏 1979年生まれの46歳。当選5回。慶大卒後、三井住友銀行、議員秘書から2014年に維新の党公認で東京6区から出馬し比例復活で初当選。その後立憲民主党などを経て中道改革連合に合流。党政務調査会長代行。