重大局面を迎えた米放送メディア 政権による威圧と寡占助長に反撃

トランプ第2次政権の下、米放送メディアを取り巻く環境は今、重大な局面を迎えている。トランプ大統領は自身に友好的な富豪が支配するコングロマリットによる他の大手メディア買収を容認して寡占を助長し、政権の意に沿わないメディアに対しては放送免許審査などで圧力を掛けている。それらを法的手段で阻止しようとする動きもあるが、予断を許さない状況にある。

ニューヨーク・タイムズ(NYT)のアーサー・グレッグ・サルツバーガー発行人は昨年5月の講演で、自律的な報道機関だけでなく、政府省庁、大学、文化団体、研究組織、権利擁護団体、法律事務所などがトランプ政権による露骨な攻撃にさらされており、米国の民主主義は危機的状況にあると指摘した。報道機関を抑圧しようする同政権の組織的行動は次の基本戦略で展開されていると同氏は述べている。

(1)政権の意に沿わない報道機関やジャーナリストに対する不信の種をまき、支持者たちによる迷惑行為を助長する。一部メディアを敵視する大統領のレトリックが脅迫メールなどの迷惑行為を誘発している。記者たちを精神的に疲労させて士気をくじきつつ、同メディアに対する人々の嫌悪感や不信感を増幅させる狙いがある。

(2)自律的な報道機関やジャーナリストに対して民事訴訟を起こし、財政的負担を強いる。政権の説明責任を追及するアカウンタビリティー・ジャーナリズムの実践を思いとどまらせようとする目的が背後にある。

(3)法的および行政権限を乱用し、主体性を堅持して政権の意に沿わない一部のメディアを懲らしめる。メディアの所有者や親会社が抱える非メディア事業がその攻撃の対象。政府機関による規制監督などの権限を利用し、間接的方法でメディアに圧力を掛ける。

(4)富と権力を持つ支持者を味方に付け、政権による報道機関に対する攻撃を補強する。政権に取り入ってビジネスを拡大しようとする富裕層を利用し、支配強化を試みる専制国家の典型的な策略。

(5)自律的な報道機関を代表取材などから排除し、政権に友好的なメディアにすげ替える。政権の意に沿わないメディアを弱体化するだけでは満足せず、政府の重要イベント取材から締め出し、代わりに追従的メディアを招き入れる。

以来、威圧に屈した幾つかの企業や組織を目の前にし、政権のメディア攻撃は今、より露骨になったようだ。しかし、今年11月の中間選挙で民主党が連邦議会の過半数を奪回した場合には、行政に対する議会のチェック機能がまともに働くと思われる。

放送免許審査でABCに圧力

本来、独立した法的判断を下すべき司法省がトランプ大統領の個人法律事務所のように機能していると批判されているように、放送業界の規制・監督を所管する連邦通信委員会(FCC)もその独立性が疑われている。

4月末、FCCはウォルト・ディズニー社傘下のテレビネットワークABCに対し、保有する地上波テレビ局の放送免許審査を前倒しで実施するとして、認可申請書の提出を命じた。当該8局の放送免許はもともと2028年から31年の間に更新される予定だったため、極めて異例の措置だと報じられている。

トランプ大統領に任命されたブレンダン・カーFCC委員長は昨年9月にも、ABCに対して放送免許を取り消す可能性を示唆し、ABCが放映している深夜トーク番組の司会者ジミー・キンメル氏への処分を要求した。キンメル氏が保守系活動家射殺事件に関し、「MAGA(アメリカを再び偉大に)」トランプ支持層を揶揄(やゆ)するようなジョークを発したことが理由だった。同氏はトランプ氏に関する辛辣なジョークで人気を博しており、トランプ氏に敵視されている。ABCはすぐに同番組の無期限放送休止を発表したが、言論の自由を擁護する団体などから強い抗議を受けた。また、ディズニー社に対しても、多くの視聴者から「ディズニープラス」動画ストリーミングサービスをキャンセルするという抗議が寄せられたこともあり、親会社主導で同番組は数日後に再開されている。

前回は言論の自由が争点だったが、今回はディズニー社とABCの「DEI(多様性、公平性、包括性)」に関する取り組みが標的となった。トランプ政権が進める「反ウォーク(woke)」政策は、DEIの名の下に白人が不当に差別されているという考えが根底にある。

しかし、昨年と同様、銃撃事件で中止となったホワイトハウス記者会夕食会に関するキンメル氏のジョークがトランプ氏を激怒させたことが真の理由だと見なされている。大統領を主賓として開催される毎年恒例の夕食会に、トランプ氏はメラニア夫人や閣僚らと共に大統領として初めて出席。第1次政権の4年と第2次政権の初年にも招待されていたが出席を拒否していた。

憲法違反を根拠にFCCを提訴

ABCは申請書提出期限の直前、FCCに抗議の書簡を提出し、その前例にない命令は「違法で、恣意的で、憲法に違反する」と主張。さらに、同規制当局は政権の意に沿わないメディアに対する報復と威圧の手段としてその権限を悪用していると述べ、視聴者にも同規制当局に抗議することを奨励するなど、争う姿勢を示した。7月末には、さらに強い抗議の書簡を送付し、この件について14万件のコメントがFCCウェブサイトに寄せられており、その95%以上がABCを支持していることも指摘した。しかしカー氏は翌日、FOXビジネスネットワークに出演してFCC政策の正当性を主張し、改めてABCを強く批判した。トランプ大統領が7月16日に全国向けのテレビ演説を行った際、演説内容には虚偽や根拠に乏しい主張が含まれる恐れがあるとして、ABCやNBCなどが生中継しなかったことも、放送免許の審査に考慮されると語っていたという。

威圧的な姿勢を変えないカー氏の発言を受け、ABCは8月18日、放送免許の前倒し審査は言論の自由を保障する憲法修正第1条に違反するとして、コロンビア特別区の連邦地裁に提訴した。トランプ政権に対する融和路線に終止符を打ち、対決路線に転じたことは、他の黙従しているメディアに影響を与えるかもしれない。

現在、3人の委員で構成されているFCCでただ1人民主党系委員のアンナ・ゴメス氏も、前倒し審査を強く批判。雇用差別についての調査は名目にすぎず、ディズニー社を標的とする政治的威圧行為だと述べている。「ディズニー社とABCは、政権による検閲とメディア支配の直近の被害者であり、FCCの行為が露骨な政治的報復で言論や報道の自由に対する違法な攻撃であることが明るみにでたことをうれしく思う」とX(旧ツイッター)に投稿した。

大規模合併には反トラスト訴訟

パラマウント・スカイダンスによるワーナー・ブラザーズ・ディスカバリー買収合併計画は、トランプ氏の後押しもあり、6月半ばに司法省反トラスト局の承認を得た。しかし、7月にはカリフォルニア、ニューヨークなど12州の司法長官と全米脚本家組合(WGA)が、同メディア大手2社の合併は反トラスト法に違反し、映画やテレビ業界での健全な競争を阻害するとしてカリフォルニア州の連邦地裁に提訴した。買収総額は1100億㌦(約18兆円)に上る。パラマウントは三大テレビネットワークの一つであるCBSを所有し、ワーナーは24時間ケーブルニュース局のCNNを傘下に持つ。

両訴訟を担当するアラセリ・マルティネス・オルギン判事は同買収合併を一時的に差し止め、裁判を来年3月2日に設定した。同判事は原告側の主張に理解を示しているようだと報じられている。同裁定について、カリフォルニア州のロブ・ボンタ司法長官は「この大規模合併の実現を確実に阻止しようとするわれわれの訴訟にとって、重要な勝利の第一歩となった」と語った。

また、同裁定は9月末までに買収を完了させようとしていたパラマウントに大きな負担を課すことになる。パラマウントとワーナーとの間で交わされた契約には遅延手数料を意味する「ティッキングフィー」が盛り込まれており、取引の完了が長引いた場合には、10月から四半期ごとに約6億5千万㌦(約100億円)をワーナーの株主に支払う義務が生じる。

その後間もなく、パラマウントはワーナー買収計画について、来年6月1日を最長の期限とし、法的問題が解決されるまで合併手続きを延期することに合意した。同社はストリーミングサービスの出現で映画産業を取り巻く環境が大きく変わったことなどを挙げ、この取引が「自由競争と消費者と制作者にとって有益であると証明できることを待ち望んでいる」と述べている。

不評買ったエリソン氏の投稿

暗礁に乗り上げた状況を打開するためか、パラマウント会長兼最高経営責任者(CEO)のデービッド・エリソン氏はNYTのオピニオン欄に寄稿し、買収合併についての考えを示した。8月4日に掲載された意見記事で、エリソン氏はこの買収に政治的な意図はないことや、自身が編集に介入する意思はないことなどを述べた。しかし同時に、報道は事実に即し、一方の意見だけではなく、多くの意見を反映させなければいけないと主張し、CNNの報道には保守派の意見が十分に反映されていないという不満を表明している。

「この訴訟で問題視されているのはマーケットシェアではなく、ワーナーが所有しているCNNの管理者として私が信頼できるかどうかということなのだろう」と述べ、自身とIT大手オラクルの共同創始者で富豪の父、ラリー・エリソン氏がCNNを敵視するトランプ大統領と親しい関係にあることが訴訟の背景にあるという認識を示した。改めて、編集の独立性を尊重する意思を表明したが、その言葉はおおむね懐疑的に受け止められている。昨年8月にエリソン氏率いるスカイダンス・メディアがパラマウント・グローバルを買収した後、CBSニュース内部に起きた混乱は周知の事実で、特にCNNのスタッフは激しく反発しているという。

エリソン氏は昨秋、反リベラリズム、中道右派を標榜するバリ・ワイス氏を直属のCBSニュース編集長として外部から起用した。以来、ワイス氏が進める編集方針についての不協和音が取り沙汰されていたが、7月初めに内部対立が表面化した。調査報道番組「60ミニッツ」の編集方針を巡り、ワイス氏とニック・ビルトン新チーフプロデューサーを厳しく批判したベテラン記者のスコット・ペリー氏を解雇したことが大きなニュースとなる。ペリー氏は「CBSイブニングニュース」のアンカーを務めたこともあり、高い視聴率を誇る同調査報道番組の看板記者の1人だった。

編集介入が摩擦生む

新任のビルトン氏を番組スタッフに紹介する目的でミーティングが開かれた際、ペリー氏はタニア・サイモン前チーフプロデューサー、同僚のシャリン・アルフォンジ記者とセシリア・ベガ記者が正当な理由もなく数日前に解雇され、番組スタッフへの説明もなかったことについて、ビルトン氏を厳しく追及した。科学技術ジャーナリストで映像作家だったビルトン氏は、ワイス氏によって外部から起用されている。

アルフォンジ氏は、自身が担当したトランプ政権の移民政策に関する特集部分が放映直前にワイス氏の指示で差し替えられたのは「政治的判断」だったと抗議していた。ベガ氏も解雇された後、この数カ月間に上層部によるさまざまな編集介入の試みがあり、それらを拒否していたと述べている。

ペリー氏はまた、テレビ報道の経験がないビルトン氏が同番組を仕切るには資格不十分だと述べ、編集方針を変えて「CBSイブニングニュース」を破滅的な状態にしているワイス氏も編集トップの地位に不適任だと批判したという。ワイス氏は同ミーティングに出席していなかった。

ビルトン氏が「ワイス氏はこの報道機関も『60ミニッツ』も大事に思っている」と応じたのに対し、ペリー氏は「彼女はこの職場を大事には思っていない。彼女はこの番組をぶち壊すために外部から起用され、今まさしくそうしている」と反論。番組スタッフはペリー氏の発言に立ち上がって拍手を送ったと伝えられている。しかし、ペリー氏は翌日に解雇された。「敵意に満ちたパフォーマンス」や「相互信頼の瓦解」などがその理由だという。

その後間もなく、ペリー氏はNYTのインタビューに応じ、その経緯や発言の背景を説明した。その中で、ビルトン氏が番組スタッフに送った就任挨拶メールは変革の必要性を訴えるも、有能な彼らを侮辱するような内容だったと述べ、会議で激しい議論を交わす「60ミニッツ」のカルチャーも理解していないと指摘している。

また、ワイス氏との信頼関係はすでに崩壊していたという。ミネアポリスで展開された移民・税関捜査局(ICE)の強引な移民摘発に抗議した市民が捜査員によって射殺された事件をペリー氏が特集した際、トランプ政権の主張に沿った形での報道をワイス氏に要請されたと述べている。

打開策を模索するパラマウント

早期の買収完了を目指すエリソン氏は、CNNの独立性を担保するための「編集委員会」を設置することや、訴訟を主導するカリフォルニア州のボンタ司法長官と合意に至らなかった場合は、パラマウントの事業を他州に移転する可能性を示唆しているという。移転した場合、同州は約3万人の職を失うことになると試算されている。

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