北京の「新京報」は2月3日、湖北省の複数の精神科病院による保険詐欺を暴く調査報道を掲載した。この8千字を超える記事と約13分間の映像記録は、湖北省襄陽市と宜昌市の民営精神科病院における組織的な保険詐欺と患者権利侵害の闇を、ありのまま国民の前にさらけ出した。折から春節を迎えた国内の和やかな雰囲気を一変させ、世論を騒然とさせた。発表後2時間もたたずに、「微博」のトレンドトップにランクインし、閲覧数は1・2億回を突破した。

断片化された時間で断片化されたニュースを消費することに慣れきった今日において、この報道は専門記者の取材力で監視が行き届かない業界の闇に光を当て、再びニュースメディアの専門性と信頼性を示した。

精神科病院に潜入取材

昨年12月、「新京報」の記者は看護助手として、湖北省襄陽市と宜昌市の複数の民営精神科病院に潜入し、調査を行った。

報道によると、襄陽市と宜昌市の精神科病院の数は異常に多い。襄陽市だけでも20以上あり、多くは郊外に集中している。地元の人の言葉を借りれば、「ここでは精神病院と牛肉麺屋の数が同じくらいだ」。これらの病院は「医療費と生活費が全額無料、長年居住可能」という看板を掲げ、商売をするように患者を集めている。甚だしい場合には、精神疾患を持たない者まで入院させ、紹介者に高額なインセンティブを支払うことさえある。

病院の実際の収益モデルは、入院者の医療保険情報を利用し、虚構の病状や偽造された診療計画などで医療保険基金をだまし取ることにほかならない。事情に詳しい看護助手の話では、病院は入院1人当たり月約5千元(1元は23円)の医療保険金を不正に取得しており、100人で年間600万元に上るという。

報道は、驚くべき保険詐欺の手口を数多く暴いた。例えば、病院が看護助手や警備員などの職員を「精神病患者」として入院手続きを行うケース。あるいは、断酒を求める人を虚構の精神病患者に仕立て上げるケースなど。医療保険の査察員の訪問を避けるため、病院は定期的に「偽装退院」をさせ、入院記録やカルテを偽造するなどしていた。

また、病院は収入増を図るため、本物の患者には退院を阻止するあらゆる手段を講じ、通信機器を没収し、家族との連絡を制限した。患者の中には「入院はまるで牢獄だ」と語る者もいる。不幸にも、行動の制限、退院できない絶望から自ら命を絶った患者もいた。さらに看護助手が患者を殴り、強制的に労働させる場面も報じられた。病院が入院患者を搾取(さくしゅ)の道具として扱い、真の精神疾患診療サービスは深刻な欠如状態にあると指摘した。

この報道が発表されると、他の主流メディアも相次いで取り上げ、評論を発表した。2月4日付の「人民日報」の論評では、政府に徹底調査を促し、「全国民に満足のいく説明を与えるよう」求めた。

世論の圧力を受け、当局も迅速な対応に乗り出した。襄陽市と宜昌市の両政府は当日、事実関係を確認するための特別班を設置した。翌日、湖北省は衛生健康委員会、医療保障局、公安などの部門による合同調査チームを編成し、約2千人のスタッフを動員し、襄陽・宜昌両市の計51の精神医療機関に対する査察を実施した。国家医療保障局も2月4日、全国の精神疾患関連医療保険指定機関に対し、自主的な点検・是正作業を緊急に指示し、各機関に3月15日までに書面報告を提出するよう求めた。

この報道が注目を集めると同時に、多くの人の目が潜入取材を行った記者・韓福濤氏に注がれた。その理由の一つは、2024年に彼が手掛けた食用油と燃料油の輸送におけるタンクローリーの混用に関する調査報道が今も記憶に新しいからだ。

この報道は、燃料油を運搬したタンクローリーが洗浄されないまま食用油を運搬するという業界の乱れを暴き、全国に衝撃を広げた。韓氏は30日余りをかけ、複数のタンクローリーに同乗して追跡取材した。揺るぎない証拠によりタンクローリーの違法な転用実態を暴いた。結果的に、この報道は、報じられた個別の問題の解決を推進するだけでなく、全国の関連業界に厳重なチェックを促し、さらに「道路危険貨物運輸管理規定」の「タンクローリー洗浄基準」に関する条項の改訂にもつながった。

2025年10月、「タンクローリー輸送の乱れに関する調査報道」は第35回中国新聞(報道)賞の「世論監督報道」部門で最優秀賞を受賞した。韓福濤記者は受賞スピーチで、「この報道を通じて、ニュース報道、とりわけ調査報道の価値を多くの人に認識してもらいたい」と述べた。

「世論監督報道賞」の設立

中国新聞賞における「世論監督報道賞」は2022年に初めて設けられた。中国の報道界にとって、その設置は大きな意義を持つ動きだ。25年2月、中国人民大学新聞学院の院長で第34回中国新聞賞の審査員も務めた周勇教授は、中国新聞賞・長江韜奮賞のシンポジウム開幕式において、「主流メディアにおける世論監督の新時代の意義」と題する講演を行い、「世論監督報道賞の設立は、メディアの世論監督報道の強化を奨励するためである」と指摘した。

近年、「新京報」が相次いで影響力のある報道を打ち出しているのは、報道界で「世論監督報道」が強化されつつあるからだろう。「新京報」だけでなく、成都伝媒集団(メディアグループ)傘下の経済紙「毎日経済新聞」も活発である。その乳児用粉ミルクの品質問題に関する調査報道も、2023年に第33回新聞賞の世論監督報道賞最優秀賞を受賞した。世論監督報道賞の応募状況を見ると、2025年は103点に達し、設立時の63点から大幅に増加した。

「世論監督報道」とは、簡単に言えば、メディアが民衆に関わる問題を掘り起こし、監視機能を発揮する報道である。ただし中国の場合、西側諸国のような権力を監視するという権力との対立を強調するメディアの機能と異なり、基本的に共産党の指導体制から逸脱することはできない。あくまで社会の安定や社会ガバナンスの向上を図るために、メディアが党や政府、企業の幹部の不正を追及したり、社会問題を暴露したりする報道が奨励されている。周勇教授は「世論監督報道は究極的には、善き方向へ問題解決を推進し、建設的ジャーナリズムの意義を発揮する」のが目的だという。

体制側の方針、姿勢はそうであるが、庶民の目線では、先に紹介したような不正を暴く勇気ある報道は大いに称賛される。

文字サイズ