ドラマ制作を激変させる生成AI ショートドラマが台頭する中国
2026年2月24日、中国映画産業の動向および関連データを分析する調査機関「猫眼研究院」は、「2026年春節档(旧正月期間の映画公開枠)に関する洞察」を公表した。同報告によれば、本年の春節連休期間中の映画興行収入は57億5200万元(1元=約22円)となり、前年同期比で39・6%減少した。観客動員数は延べ1億2000万人で、同35・8%減少している。このような春節档における興行収入の低迷は、ヒット作の不在が主因とされる一方で、短時間・低コストを特徴とするショートドラマの台頭も看過し得ない要因であると指摘されている。
2020年末、中国国家ラジオテレビ総局は「重点ネット配信ドラマ・映画情報備案(登録)システム」に新たに「ネット微短劇(マイクロ・ショートドラマ)」の区分を設け、ショートドラマは正式に映画・ドラマ産業の制度的枠組みに組み込まれた。この措置により、20年は「ショートドラマ元年」と称されるようになった。
ショートドラマに圧倒される映画業界
近年、中国では、景気減速に伴う娯楽支出の低迷が続く中、ショートドラマは制作コストの低さと制作期間の短さを背景に、産業参入の障壁を著しく引き下げ、多数の制作主体を市場に流入させた。1話当たり1〜3分、全体でも1〜2時間程度に収まるショートドラマは、通勤・通学や休憩といったスキマ時間に適合し、無料作品が多いことから、視聴者の時間および支出をめぐる競争において優位性を有している。さらに、「抖音(TikTokの中国版)」、「快手」「WeChat」などのプラットフォームにおいて、アルゴリズムによるコンテンツ推薦と高頻度の視聴サイクルを組み合わせることで、膨大な視聴者の獲得が可能となっている。
しかし、発展初期のショートドラマは、低俗さや安易な感情刺激に依拠した内容が多く、「電子ザーサイ」とも揶揄(やゆ)されるなど、映像業界のみならず視聴者の間においても軽視の的になっていた。このような評価の低さは、作品の質的向上や産業全体の信頼性の確立を困難にし、結果として産業の持続的発展を阻害する要因となっていた。
こうした状況を受け、中国政府は規制強化に乗り出している。2022年以降、国家ラジオテレビ総局を中心に「ネットワーク微短劇の管理強化および創作向上計画の実施に関する通知」(22年11月)、「微短劇の備案に関する最新の業務指針」(24年6月)などが相次いで公表され、審査制度の厳格化や制作基準の引き上げが進められている。
24年以降、ショートドラマ産業は本格的な拡大期に入り、高品質化を志向する発展段階へと移行しつつある。中国インターネット協会が公表した「中国インターネット発展報告(2025)」によれば、24年のショートドラマ市場規模は500億元を突破し、初めて映画興行収入を上回った。利用者規模も6億6200万人に達し、インターネットユーザーの過半数に浸透している。さらに、デジタルマーケティングおよびデータ分析会社である「DataEye研究院」の統計によれば、25年にはショートドラマおよび「漫劇(アニメ・コミックを原作とする短尺動画)」の市場規模は1000億元に達し、同年の全国映画総興行収入の約2倍に迫る水準となった。
ショートドラマ産業が全盛期へと移行しつつある一方で、収益構造の脆弱性が重要な課題として指摘されている。発展初期においては、無料視聴を入口とし、後続エピソードの解放に課金を求めるアプリ内課金(IAP)モデルが主流であった。しかし、課金収入は一部の上位作品や大手プラットフォームに集中する傾向が強く、市場全体としては収益格差の拡大を招いている。
2023年5月、「バイトダンス(ByteDance)」が運営するショートドラマ配信アプリ「紅果短劇」がリリースされ、「無料+アプリ内広告」(IAA)によるレベニューシェアモデルが導入された。無料視聴を基本としつつ一定の収益性を確保するこのモデルは大きな注目を集め、現在では業界の主流となっている。中国ネットキャスティングサービス協会(CNSA)が24年11月に公表した「中国微短劇産業発展白書(2025)」によれば、25年において無料型ショートドラマは市場全体の約66・3%を占めるに至った。しかし、無料コンテンツの増加はユーザーの支払い意欲を低下させ、収益化の困難性を高める要因ともなっている。
AIがコスト減と制作時間短縮に一役
ショートドラマ産業のもう一つの課題は、「AI生成実写風ドラマ」という新たな制作形態の台頭がもたらす衝撃である。AI生成技術は、脚本作成から映像・音声の生成、さらには編集に至るまでの工程を一体的に担い得る。その結果、俳優のキャスティングやロケ地の確保、撮影、編集といった従来の制作プロセスの多くが不要となり、制作コストの大幅な削減と制作サイクルの著しい短縮が可能となる。
2026年1月、中国のIT大手である「360グループ」は自社開発のAI映像生成プラットフォーム「納米漫劇流水線」のオープンベータテストを実施した。同プラットフォームは、脚本解析から絵コンテ生成、映像生成、編集に至るまでの工程を一つの制作ラインに統合するものである。翌2月には、同プラットフォームを活用して制作されたAI短編歴史ドラマ『霍去病』が公開され、数千人規模の戦闘シーンや人物の繊細な表情描写で大きな話題を呼んでいる。監督の楊涵涵氏は中国メディアの取材で、作品は約20人のスタッフが4日間で完成させたと述べた。
AI生成動画の急速な拡大は、従来型のショートドラマ制作に大きな影響を及ぼしている。ネットドラマの演出を務める筆者の知人によれば、中規模の実写作品の制作費が約50万〜100万元であるのに対し、AI生成作品は約10万元程度に抑えられるという。さらに、2026年以降、制作開始に至るショートドラマの本数が大幅に減少し、俳優の出演機会も著しく縮小していると指摘されている。
中国のメディア産業にしばしば見られるように、新技術の導入が既存技術の急速な相対的衰退をもたらすという動きは、ショートドラマ領域においても例外ではない。従って、同産業の今後を展望するに当たっては、個別の市場規模や一時的な成長率にとどまらず、技術革新と制度環境の相互作用の中で進行する構造的転換過程として、その発展動向を継続的に観察していく必要がある。