トランプ時代のサバイバル戦略とは何か 問われる日本の選択、メディアの役割

公益財団法人・新聞通信調査会は6月23日に都内で公開シンポジウム「トランプ米大統領に揺さぶられる世界」をテーマに開催し、オンラインでもライブ放映した。第1部では北岡伸一東京大学名誉教授が「日本外交史から見たトランプ革命」と題して基調講演(本誌8月号に掲載)。

第2部パネルディスカッションでは、国際安全保障に詳しい小谷哲男明海大学教授、現代アメリカ政治外交が専門の三牧聖子同志社大学大学院教授が登壇し、ニューヨーク在住のジャーナリスト津山恵子氏にもビデオ参加していただいた。コーディネーターは共同通信社編集委員兼論説委員の川北省吾氏が務め、世界を揺さぶり続けるトランプ政治・外交の現状と、その対応策、メディア報道の在り方などについて議論を交わした(敬称略)。


川北省吾氏

川北省吾氏

川北省吾(以下「川北」) 第2部はまず三牧先生からプレゼンテーションをいただき、小谷先生を交えて議論。その後、小谷先生にやはりプレゼンをお願いして、今度は三牧先生も交えて議論したい。

その後に事前録画だが、津山さんに現地のメディア事情について報告いただく形で進めたい。それでは、三牧先生からお願いします。


トランプは王様か


三牧聖子氏

三牧聖子氏

三牧聖子(以下「三牧」) アメリカはヨーロッパのように、王や封建的な貴族がいないところに良さがあるという認識の下、これまでの歴史を刻んできたはずだ。だが、トランプ大統領は、あたかも王様のように振る舞い、自由や民主主義を共有する国よりも、権威主義的なリーダーの方に、シンパシーを感じている。そうした政治家が2度までも大統領になって支持を集めている。これは一体どういうことなのか。

トランプ大統領の世界認識は、アメリカはこれまで搾取されてきたというものだ。第2次世界大戦後80年間、リベラルな国際秩序の下、アメリカもリーダーとして相互に恩恵を受けてきたはずなのに、トランプ大統領と、その支持者の認識では、アメリカは不当な持ち出しで世界や同盟国を守ってきたというのだ。

トランプ氏は2024年大統領選ではウクライナやガザの戦争は止める、ノーベル平和賞も取りたいと言っていたが、26年には単独行動主義的な軍事行動に及んでいる。

基調講演で北岡伸一先生も言及していたが、アメリカはそもそも孤立主義をとってきた。そのアメリカが19、20世紀の転換期、中南米を裏庭と見なして介入するようになった。そして二つの世界大戦、とりわけ第2次世界大戦後に国際連合を中心になって作って、世界の安全にさまざまに関与するアメリカが誕生した。

孤立主義に戻るアメリカ

でも、後になってみると、第2次大戦後からトランプ政権までの約80年間は、例外的な時期だったと言われるかもしれない。トランプ政権はアメリカ外交の常道である孤立主義、19世紀までのアメリカに戻っているという見方も可能だ。

今、恐れているのはトランプ大統領が世界について語る時、モンロー主義とかマニフェスト・デスティニーとか、領土拡張と結びついた19世紀の言葉を用いることが多いことだ。それに対して20世紀に誕生した国際連合とかマルチラテラリズム(多国間主義)などの言葉はほとんど使わない。

もう一つの懸念は、80年少し前に連合国の3巨頭、当時はイギリスのチャーチルとソ連のスターリン、アメリカのフランクリン・ルーズベルトが、世界分割について話し合ったのがヤルタ会談だったが、今やイギリスの代わりに中国の習近平国家主席が入って、ロシアのプーチン大統領、アメリカのトランプ大統領と共に、こうした勢力圏をつくってしまうのではないか、歴史が80年前に巻き戻されてしまうのではないかということが、トランプ外交がわれわれに突き付けている懸念である。

イラン戦争は何ももたらしていない

さて、2月11日、ホワイトハウスでイスラエルのネタニヤフ首相も加わって会談が開かれた。バンス副大統領だけではなく、さまざまな閣僚がイラン戦争に懸念を示したが、開戦に決定的な役割を果たしたのがネタニヤフ首相だったと言われている。高度に主権的な決定にイスラエルが入ってくるのであれば、一体アメリカの主権者は誰なのかという言葉も飛び交う現状だ。

実際にトランプ大統領の岩盤支持層のMAGA(米国を再び偉大に)は、トランプ大統領がアメリカ・ファーストと言ってくれたので支持してきたが、今やイスラエル・ファーストになっていると批判を始めている。これは極めて真っ当な批判だ。

イラン戦争はアメリカに何ももたらしていない。6月17日のイランとの覚書も、イランの要求をそのまま盛り込んだような内容で、少なくともアメリカは戦略的に敗北したと言われている状況だ。

脱イスラエルへ変貌する民意

アメリカ市民社会にはもっと大きな変化が起きている。23年に始まったイスラエルのガザでの軍事行動に加え、今回のイラン戦争も後押しして、パレスチナ支持がイスラエル支持を上回るという、親イスラエル国家ということを自明視できない世論の現状がある。

ただ、政治の変化は緩慢だ。トランプ大統領のみならず、民主党の前大統領候補カマラ・ハリス氏や民主党院内総務のチャック・シューマー氏など重鎮の議員たちも、イスラエル・ロビーと呼ばれる団体からさまざまに選挙支援等を受けている。となると、アメリカ政治の脱イスラエル化は、世論が変わったから変わりますよというほど単純ではないが、市民社会はイスラエル・ロビーに支援された政治家に批判の目を向けるようになっている。

イラン戦争、勝敗は時期尚早

川北 三牧先生は、アメリカは戦略的に敗北したという見方だったが、小谷先生はどう見ているか。


小谷哲男氏

小谷哲男氏

小谷哲男(以下「小谷」) アメリカとイランが署名した14項目の覚書を文字通り読むと、イランにかなり有利な内容が並んでいる。アメリカが負けて、イランが勝ったと言えると思うが、トランプ政権からすると、わざとそうしている。イランに有利な文書でなければ、イラン側が受け入れないからだという。革命防衛隊を中心に強硬派がいるので、彼らを抑えるためにも、表向き、この覚書でイランが相当なものを取ったと言えなければならない。バンス副大統領も公の場でも言っている。

実はこの覚書とは別に関連文書が存在する。イランはアメリカの要求も受け入れた上で、誠実に対応していくという約束があったからこそ、トランプ大統領も今回、署名をしたという。このトランプ政権の認識が正しいのであれば、覚書だけを見て勝った、負けたというのは難しい。評価はまだ早いのかなと思う。

川北 三牧先生、何か追加のコメントはありますか。

三牧 その点はまさにおっしゃる通りだと思う。ただ、米中枢同時多発テロの後、アフガニスタン戦争、イラク戦争という、膨大な犠牲と戦費の浪費だけの軍事介入を経て、トランプ大統領は米国第一をアピールして政治的に台頭した。今回のイラン戦争の今後の経緯は非常に重要だが、米兵の犠牲が13人も出て、イラン市民にも数千人の犠牲が出た。こういうことをしないと言って支持を得た人が、再びやってしまった。アメリカは、やはり望ましい方向に行ってはいないと言えるのかなと思う。

はしごを外された同盟国

川北 イラン戦争が外交的にどういう悪影響を及ぼしたかという点についてうかがいたい。小谷先生、いかがですか。

小谷 今年初めのベネズエラに対する軍事攻撃も2月28日のイランに対する攻撃も国際法上、自衛権の行使として説明するのは極めて難しい。ベネズエラに関しては法執行だとアメリカは言っている。イラン攻撃に関しては、イスラエルがイランに攻撃を受けたので、集団的自衛権の行使という説明だ。だが、法的にはかなり苦しい説明だと言わざるを得ない。

第2次大戦後の80年間、アメリカが主導する形で国際法に基づく世界秩序をつくってきた。そのアメリカが国際法なんて関係ないと言い出して、やりたい放題だ。われわれ同盟国はまさにはしごを外された状況になっている。

ロシアがウクライナ侵略を始めた当初、力が正義だという規範が広がってしまうということで、国際社会はウクライナを支援し、ロシアへの制裁を強化してきた。しかし、トランプ政権は、ロシアよりもウクライナに厳しいというのもあり、今、日本もヨーロッパも国際法、あるいは国際ルールを無視するアメリカとどう付き合っていけばいいのか、難しい問題に直面している。

ヨーロッパの方は、欧州連合(EU)はあるし、北大西洋条約機構(NATO)もある。だが、アジアではヨーロッパほどの集団として、新しい世界秩序に向き合えるようなところに来ているかというと難しい。

このままアメリカにこびるような外交を、続けることが果たしていいのか。日本は年内に改定する安全保障関連3文書の中で、戦略的自律性ということが強調されると思うが、それが一体何を意味するのか、アメリカとの距離感をどうするのかも含め、日本の中にコンセンサスがあるようには見えないので、しっかり議論しないといけないのではないかと思う。

数十万単位の人々が命のリスクに

川北 はしごを外された日本、そしてヤルタ2・0という紹介もあったが、三牧先生は、同盟国日本はどう処していくべきとのお考えか。

三牧 トランプ大統領はアメリカを偉大にと掲げて、結果的にアメリカの得にならない、アメリカのパワーや魅力を減ずるような戦争や行動をして、むしろアメリカを衰退、偉大でなくさせてしまうのではないか、既にさせているのではないか。

これを明示的におっしゃったのは、ソフトパワーという概念を生み、昨年亡くなったハーバード大学のジョセフ・ナイ教授だが、トランプ政権はアメリカ第一だから人道支援なんてしなくていいと、冷戦期に作られた人道支援機関を壊し、その結果、数十万単位の人々が命のリスクに襲われるような状況になっている。それは米国第一にはかなっているかもしれないが、アメリカが長年培ってきた国際社会の信頼を失っている。無形のパワーに対する認識が、トランプ大統領には欠けている。

もう一つは同盟だ。世界中に同盟国があって、単に軍事的な安全保障だけではなく、民主主義や人権といった価値を共有していることが、アメリカの同盟の強みだった。だが、トランプ大統領は、同盟国こそがわれわれの負担であるとか、イラン戦争でも同盟国なのに何でホルムズ海峡に艦船を送らないんだという形で、同盟国に苛烈な関税政策とか対米投資を求めたりして、同盟をかなり混乱させてきた。まさに力こそ正義がよみがえってきて、同盟国としても立ちすくんでしまっているところがある。

対中政策で米とのずれに懸念

アメリカの偉大さが、トランプ大統領が定義する力だけの正義になったとは思っていないので、歴史的な偉大さというのは何だったんだろうということが再び議論されて、アメリカの伝統に即した偉大さが復活していく。それを待つような日本外交を取るべきではないか。

これに加えて若干の懸念が対中関係だ。トランプ大統領は11月の中間選挙前に、ディールを求めて対中接近している中で今、完全に冷却化している日中関係と、米中融和のムードが対照的になってしまっている。単に中国との関係が悪いということだけでなく、われわれの重要な同盟国アメリカと、対中政策に関して歩調が相当あってないのではないかという懸念もあると思う。

米国の分断さらに深く

川北 同盟国とのきしみなど外の世界を見て、アメリカ国民は今、どのように思っているのか。小谷先生からおうかがいします。

小谷 共和党支持者は、いまだに7割近くがトランプ大統領を支持、アメリカ・ファーストを歓迎している。他方、民主党支持者は、過去80年、アメリカが築き上げてきた国際主義の流れを逆戻りさせていると批判を強めている。従来から根深かったアメリカ文化の分断がさらに深くなっている。アメリカ経済は今、イラン戦争もあって、かなり厳しい状況だ。それが11月の中間選挙にどう影響を与えるか。MAGAの支持層はもちろんだが、共和党支持者がトランプ大統領をサポートするような投票行動をどこまで取るか。

他方、民主党の支持率が上がっているかというと、必ずしもそうではない。24年の大統領選挙でなぜ負けたのか、いまだに総括ができていない。中間選挙では、下院で民主党が多数派になる可能性は十分あるが、28年の大統領選挙を見たときに、共和党の候補者と戦える候補者が出てくるかというとかなり危うい。

新しいアメリカンドリーム

川北 民主党もいまだに党としての方向性が見えない感じがするが、三牧先生、その辺りはどうか。

三牧 トランプ大統領が24年の大統領選挙で勝ったのは、生活を楽にしますと訴え続けたことだ。アメリカの人たちがどういうことに絶望しているかがよく分かっていた。それに対して民主党は自由とか多様性とか、抽象的なスローガンに終始してしまい、生活が苦しい人がこれに引かれるわけはない。このイメージも含めて脱却できないと、トランプ政治が嫌な人も民主党に戻ってくることはないのではないか。

川北 本来労働者の党でありながら、労働者に支持されてないということか。

三牧 まさにその通りで、もう一つ大きな変化は、民主党支持者の間で、もう少し社会主義的な方向にかじを切ってほしいと回答する人の方が、資本主義のままでいいという人より多くなっていることだ。

昨年11月にはニューヨーク市長選で、物価高問題に取り組む社会主義者というマムダニ氏が、若者の圧倒的な人気を集めて勝利した。この民主社会主義の台頭は、今のアメリカの現実に即したある種、次のアメリカンドリームというか、方向性だと思う。これが党として見ると、民主党に分断をもたらしてしまう。この辺りに民主党の難しさがあるのかなと思う。

トランプの奥底に反オバマ

川北 それでは小谷先生、プレゼンテーションをお願いします。

小谷 トランプ大統領が一体何を考えて政治をやっているのか、プロファイリングをやってみたい。イラン情勢がどうなるにせよ、トランプ大統領は必ず何かやらかすので、その時に少しでも理解できるように、六つの行動原理について話をしたい。一番の奥底にあるのは、オバマ元大統領の否定ということだ。トランプ大統領はオバマ氏が大嫌いなのだ。

トランプ大統領はオバマ氏の当選後、オバマ氏には大統領になる資格がないと位置付けた。アメリカの大統領になるには、アメリカ生まれであることが条件だが、オバマ氏はアフリカ生まれだということを根拠なく言って、正当性を弱めようとした。オバマ氏もそれは分かっているので、それをさらに再否定する形でトランプ氏をやゆし、ばかにするというシーンがあった。

トランプ大統領はオバマ氏に個人的な恨みを持っていて、それが彼を大統領選挙に出馬させる原動力になったというのが、側近たちが声をそろえて言うことだ。

イラン戦争もオバマ氏の否定から始まっている。15年にオバマ政権がイランとの核合意を結んだが、トランプ大統領はツイッター(現X)でこんなぶざまな合意はないとつぶやいた。トランプ政権は1期目にオバマ核合意を破棄し、より厳しい合意を結ぼうとしてきたが、それがうまくいかないので、2月28日の攻撃に踏み切った。環太平洋連携協定(TPP)や、気候変動対策の国際的な枠組み(パリ協定)からの離脱もオバマ氏の否定ということだ。

オバマ氏は「核なき世界」という演説をして、ノーベル平和賞をとったが、中国、ロシアは逆に核戦力を増強したとして、ノーベル平和賞に値しないと言ってきた。一方でトランプ大統領は北朝鮮と対話し、イスラエルと中東諸国の関係正常化「アブラハム合意」を結んだし、八つの紛争を止めた自分こそが、ノーベル平和賞に値するというのはオバマ氏への当てつけだった。

「力が正義」の現実主義者

次にトランプ大統領の特徴は、ディールメーカーを自称していることだ。ディールの天才だと考えている。トランプ大統領にとっての政治、外交はディールであり、ディールすることが目的だ。イランと14項目の覚書を結んで、その先に最終合意を結ぶ。これもディールをするために、この戦争を始めたということが言える。

トランプ大統領は現実主義者である。通常、国際関係において現実主義者というのは、勢力均衡を重視して関係を安定するという考えを持つ人だが、トランプ大統領の場合は、力が正義だという意味での現実主義者だ。弱肉強食の国際社会において、アメリカは圧倒的な力を持っているのだから、それを活用してアメリカの国益を守る。その何が悪いのだということになる。

他方で、力が正義だと考える強権主義の指導者とは馬が合う。プーチン大統領、習近平国家主席、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記を重視するのは、国際法とかうっとうしいルールに縛られなくて済む。イランも力が正義だと考えているが、イランの不幸は核兵器を持っていなかったことだ。

不動産とテック信仰

四つ目は私の造語だが、テック不動産という観点で動いている。もともと不動産開発のビジネス出身だ。従って、他国の領土を単なる不動産とみなす傾向がある。イスラエルによって破壊され尽くしたガザは、中東の一大リゾート地にすればいいと言った。

実際に人工知能(AI)や自動運転などの最先端技術を使った近未来型の都市計画を、娘婿のクシュナー氏が進めている。

特に2期目は、このテック系の最高経営責任者たちとの極めて近しい関係が特徴だ。テック系の人たちはもともと民主党支持だったが、バイデン政権の富裕層への課税強化によって、24年の選挙では軒並みトランプ支持、共和党支持に変わった。

このテック系の人たちは、単に課税逃れをしたいだけではなく、民主党が強化しようとした規制の緩和をトランプ大統領と共和党に求めている。トランプ大統領の不動産開発とテック系の技術至上主義、これが結び付いたのが2期目のトランプ政権の特徴ということになる。

究極のナルシスト

トランプ大統領は、究極のナルシストであり、自分に絶対的な自信を持っている。彼はどんな人の意見も聞かない。しかし、唯一耳を傾ける存在がある。米国債マーケットだ。

昨年、中国との間で150%の関税を掛け合った時に、アメリカのマーケットは株安、ドル安、債権安のトリプル安となった。とりわけ10年物国債の金利が4・5%まで上昇。自分が中国にけんかを売ったにもかかわらず、中国側にいったん停戦しようということで、関税交渉を始めた。

それ以降も10年物国債が4・5%に近づくと、突然日和ってしまった。イギリスの経済紙、フィナンシャル・タイムズの記者は「Trump Always Chickens Out(トランプはいつも尻込みして最後に日和る)」の頭文字から「TACO」と表現した。トランプ氏はこれからいろんなことをやると思うが、この点を押さえていれば、ある程度トランプ氏が何を考えているのかというのは分かるのではないか思う。

米国民はオバマ超えを望んでいるのか

川北 トランプ氏はオバマ時代に結ばれたイランとの核合意を18年に破棄したわけだが、これから自分でも新しい核合意をつくっていかないといけない。果たしてオバマ超えの核合意が可能なのか。三牧先生お願いします。

三牧 アメリカ国民を含めて本当にオバマ超えの核合意をつくってほしいという機運が高いとは言えない。そんなことよりも早くホルムズ海峡が正常化してほしい。トランプ大統領は、アメリカはホルムズ海峡が閉まっていても困ってないと言っているが、ガソリン価格のみならず、肥料価格が高騰して、共和党の本来的な支持層である農家も苦しいということになっている。

ただ、通常われわれが考えているのは、より実効的にイランの核兵器開発を抑える道はどういう仕組みなのかということなので、交渉に2年かけて、他国も巻き込みながらつくったオバマ核合意を有効性、実効性において、超えるものをつくるのは、やはり難しいのではないかと思う。

バンスの奥の手

川北 小谷先生は核協議の行方、どう見ているか。

小谷 今、トランプ政権、特にバンス副大統領が考えているのは、視点を変えて、核合意の中身というよりは、合意がいかに地域全体で受け入れられるかというところに論点をずらそうとしている。15年の核合意に対して、イスラエルは当然、猛反発し、湾岸諸国も不安を感じていた。イランの核開発は本当に抑えられるのかと。

今回の流れはカタール、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、オマーンなどもプロセスに関わっている。従って、湾岸諸国もトランプ政権が結ぶであろう合意については歓迎する。ウラン濃縮の細かい規定ではなく、それが地域全体やアメリカとイランに与える影響、これをもってオバマ超えをしようとしているのだと思う。

イランがそれを受けるのかどうか、正直分からないが、少なくともバンス副大統領はそういう方向性で、オバマ超えをできるようにしようとしていると感じている。

川北 こういったことをトランプ政権が考えているとすると、イスラエルは当然、面白く思うわけはないので、どういうことが予想されるか。

小谷 実はトランプ政権は、最終的には、イランとイスラエルの関係の改善、これもまさにオバマ超えの中に含めている。相当難しいとは思うが、トランプ大統領は、これまでの歴代大統領ができなかったことをやるのが、自分のレガシーと考えている。アメリカとイランの関係を改善することもそうだし、何よりイランとイスラエルの関係を改善させることができれば、確実にノーベル平和賞が取れると考えているはずだ。地域の実態を理解した上で外交を行わないのがトランプ大統領なので、実現性は考えずに追求するということはあり得ると思う。

中東和平へのかすかな希望

川北 そういうトランプ構想的なものが、中東の穏健湾岸諸国以外の国々で、受け入れられるのかどうか。三牧先生、どうでしょうか。

三牧 湾岸諸国の首脳たちにとって、正直なところパレスチナ問題があるために、なかなかイスラエルと関係が改善できない。市民レベルではパレスチナ問題は大きいので、そういうことを無視してリーダー間では同意できるかもしれないが、それがどれだけ持続的なものになるかというのは若干疑問だと思う。

今日はイランの話が中心になっているが、レバノンを占領した地域はそのままにして、イスラエルがどんなことをしたって、アメリカは見捨てないという、イスラエルのアメリカへの絶対的な信頼が自明のものとしてあったが、それが崩れてきている。アメリカの人たちも、それが中東における平和の大きな障害になっていると、ようやく気付き始めているので、この関係が変わってくると、中東の和平の可能性というものが見えてくることもあるのかなと思う。

民主党もイスラエル批判

川北 第1期トランプ政権のマイク・ペンス元副大統領が6月1日付のウォールストリート・ジャーナル紙に、共和党は本来の保守の理念を追求する党になるべきで、ポピュリストのMAGAの誘惑に負けていいのかという論説を書いている。彼は福音派で共和党の旧主流派。同派の巻き返しが28年をにらんで始まっているのではないかという影を見るが、その辺りはいかがか。

三牧 そこで期待が集まっているのが、本当の意味で伝統に戻そうとする動きだ。トランプ政権はすごく親イスラエルであるとともに、伝統的な保守派にあった情緒的なものはほとんどない。そこはやはり、より強く、バンス副大統領は最近、今までの中で最も厳しいイスラエル批判を行っている。身の程をわきまえろと。あなたたちはアメリカが支援しているから戦うことができる。何をやっているんだと。


「トランプに揺さぶられる世界」をテーマに開かれたシンポジウム

「トランプに揺さぶられる世界」をテーマに開かれたシンポジウム

まさにポピュリストであるがゆえに、共和党支持者も含めて、トランプ、バンスはネタニヤフにいいようにやられているという批判を感じ取っているのだと思う。そういう批判はMAGAの間にもある。

今後は分からないが、そういう伝統的な共和党から切れた、新しい共和党を担い得る人が、今までは自明視されてきたイスラエルとの特別な関係を問い直し、純粋にMAGAを実現しようとしたらイスラエルはむしろ障害になっている。

また今、民主党の方でも非常に強いイスラエル批判が生まれている。一方、シューマー氏とか中心の人たちはイスラエルとすごく深い関係があるので、どっちが先に本当の意味で、イスラエルとの特別な関係を問い直していけるか。もし、そういう政党が現れたら、随分、アメリカの中東へのアプローチも変わっていくので、これは短期の変化ではないかもしれないが、いろんな兆しが出ている中で一つの注目点と思う。

大統領候補、バンスかルビオか

川北 ここで28年の大統領選挙の話をやっていきたい。バンス副大統領が大統領候補、ルビオ国務長官が副大統領候補というチケットになった場合と、その逆の場合で随分と変わるのかなと。

小谷 トランプ大統領は今、バンス副大統領とルビオ国務長官のどちらが後継にふさわしいか競わせているところだと思う。大方の見方はバンス副大統領がイラン戦争を有利な形で収めることができれば、トランプ大統領の後継者になる。そうでなければ、ルビオ国務長官が有利な立場に立つのではないかと言われている。

バンス副大統領はそれを十分理解した上で、今回イランとの交渉を率いていると思う。まだ2年以上も先のことなので、イラン戦争の終わり方が、共和党の候補者を決める大きな要因にはなってくると思う。

負けたハリスでいいのか

川北 三牧先生、民主党はどうか。

三牧 ルビオ国務長官はトランプ大統領を批判していただけではなくて、人権や民主主義を掲げて、中国の民主主義の弾圧とか人権侵害も批判してきた。もしルビオ国務長官が大統領になれば、もう少し同盟国と協力関係を結びながら、民主主義や人権の危機があった場合には、もう少し協調行動を取れるようなアメリカが戻ってくるのかなという感じがする。

バンス副大統領だったらトランプ大統領以上にMAGA路線だと思う。とにかくアメリカ国内を立て直す。同盟国に対してはアメリカの国内の立て直しのために、いろいろやってもらいますというような、トランプ路線がさらにラディカルに進められる可能性がある。

一方、ペンス元副大統領等の動きが活性化して、トランプ大統領の判断に影響すれば、ルビオ大統領の可能性も出てくるところもあるのかなと思う。

民主党の方は、カマラ・ハリス氏が世論調査によっては有力な候補みたいなところがある。24年の大統領選の総括をちゃんとしないで、1回負けた候補を出してもいいんじゃないかという民主党のメンタリティーが、次の大統領選の民主党の最大の障害になるのではないかと思う。

メディア攻撃に記者の耐性

川北 次にアメリカ在住のジャーナリスト津山恵子さんのビデオをご覧ください。トランプ政権の報道規制、メディアと報道の関係をどういうふうに見ているか。

津山 負の面と、アメリカのメディアがすごく頑張っているなという面が混在している。負の面では第1次政権時に比べ、トランプ大統領自身、あるいは政権がメディア攻撃するケースが目立っている。米ABCとか早々に巨額の示談金を払って手を打ったという例もある。マスコミ用語では負け示談と言うが、報道機関としてのメディアが負けた前例になってしまったと思う。

ただ、日々のホワイトハウスでの大統領報道、記者会見などを見ていると、記者がメディア攻撃に対する耐性を強めてきている。例えば、記者は追加質問をしてはいけないことになっているが、A社の質問に対して、きちんとした答えが得られなかった場合、他社の記者が追加の質問を続けていくといったことは、本当に当たり前に見られるようになった。

進むハゲタカファンドの買収

川北 メディアを取り巻く環境の変化の中で、編集と経営の均衡関係にどんな影響を与えていると見ているか。

津山 ハゲタカファンドと言われる投資会社が、お金もうけのために地方の大きな新聞社を買うということが進んでいる。ハゲタカファンドの政治的な思想をあまり強く出さないという経営方針は、多くの新聞社に影響を与えると思う。ジャーナリズムに対して、アメリカでは資本主義の論理が強く働き始めており、それが直接的にトランプ政権と関係していると思わざるを得ないというのが現実だ。

川北 ある調査によると、過去20年で3000とか3500という地方紙がなくなってしまって、ニュース砂漠と言われる現象が拡大している。こうしたローカルジャーナリズムの空白を埋める情報ツールというのは出てきているのか。

津山 二つある。一つはニュース砂漠が広がって、大手新聞社のおそらく3割近くがハゲタカファンドの所有下にあって、カメラマン、デスク、記者の数が大幅に減らされ、幽霊新聞のような状況となっている。

過去に何度もピュリツァー賞を受けたことがあるデンバー・ポストという新聞を、21年に調べたことがある。紙面が通信社電とニューヨーク・タイムズの記事でほぼ埋め尽くされ、自社記事はほとんどないという状態だった。過去最大の発行部数は100万部以上だったが、21年は9万部。こういったことが地方新聞で起きている。

地方ニュースウェブサイトは活況

一方で、デジタルだけのローカルニュースのウェブサイトが、ものすごい数、アメリカでは誕生しており、従来の新聞社のウェブアクセス数を超えるアクセス数を持っていて、主要メディアに代わる存在になってきている。こうしたことを新聞通信調査会のメディア展望6月号に書いたので、ぜひ読んでいただきたい。

川北 新しい形のメディアが頑張っているという話だが、これはアメリカの民主主義とか地方自治をどういうふうに変えていくと考えているか。

津山 新しい器をものすごくうまく活用しているとともに、それによってより多くのオーディエンスを獲得している。新聞紙だけを取っていた時、月に40㌦くらい払っていたかと思う。ところが今、7、8㌦でニュースだけなら、ニューヨーク・タイムズをアプリで読むことができる。

ポッドキャストも、ニュースを吸収したいという人たちの需要にすごく合っている。ながら族で好きなときにアプリで聞くことができる。スマートフォンのこのアプリを通したデジタルサービスの幅広さ、豊富さには、旧来の紙、放送はかなうことができない。こういう方法があるということを、ジャーナリズムを研究する立場としては伝えていかなくてはいけないと思っている。

人間性の復興をどう実現するか

川北 三牧先生、小谷先生は次の世代の日本社会、アメリカ研究、言論を支えている方々であると思っている。メディアに対する注文、あるいは期待をそれぞれいただきたい。

三牧 メディアの形態が変わり、人間も変えられてしまった。交流サイト(SNS)というのは、キャッチーな見出しでアクセスを引き付けて、真実よりデマの方がはるかに早く拡散してしまう。ある種、面白いデマを求める社会がつくられてしまっている。

政治的に得になるのであれば、政治家はデマや中傷であっても、何だって使う。トランプ大統領だけの問題ではなくて、メディアの問題であるとともに、そういう政治家を見破ることができず、喝采してしまう人民との共犯関係なので、これをどう打ち破るか。

私自身、いわゆるオールドメディアの愛好者だし、そこに一つの活路を見出しているが、真実を求め、権力が不当な動きを見せた時は権力批判する。これは人間そのものの問題なので、こういう人間性の復興をどう実現していくかということに関して、問題提起を続けていただきたい。

これは単にメディアへの注文という次元の話ではなく、今、大学もたたかれる存在になってきて、大学やメディアをバッシングする政治家たちが、なぜこんなに人気なのかということも含めて、ぜひ一緒に考えて戦っていきたいというのが、私自身の課題も含めたコメントだ。

権力監視、再び重視する社会に

川北 小谷先生にはメディアへの注文、抱負と併せて、特にトランプ政権とメディアの関係に非常に詳しいので、その辺りも含めてお話しいただきたい。

小谷 トランプ大統領は16年、泡沫候補との事前の見立てを見事に裏切って大統領になった。そして、示したのがレガシーメディアはフェイクニュースだということだった。そこで彼自身がSNSでトランプ政権のやろうとすることを発信し、世界を動かそうとした。今、他の政治家たちもSNS発信することが増えてきた。それがますます従来のメディアの役割を低下させている側面があるのではないか。

メディアには幾つかの存在価値がある。一つは情報をより広く伝えること。もう一つは権力の監視。極めて重要な役割だと思うが、トランプ政権1期目以降、メディアが権力を監視することが極めて難しくなっている。民主主義の国においては極めて深刻な事態だ。情報がどこまで根拠があるのかということを検証することなく、広まってしまう社会になってしまった。メディアが権力を監視しようとすると、その行為自体が批判される。今われわれは極めて危険な状況に置かれている。

権力が不当な形で使われないようにするのは、民主社会にとっては極めて重要なことだ。われわれメディアに出ている側も従来のメディアと協力して、いかに信頼ある情報の発信を復活させ、権力の監視を再び重視する社会にしていくか、この点を果たしていく役割があるのではないかと思う。

同盟国としての価値が問われる

川北 最後に日本の選択について、十分なお話ができなかった部分があれば、小谷先生からお願いします。

小谷 先ほど安保3文書改定を巡って、日本の戦略的自律性の議論が必要だという話をしたが、日本が安全保障の面でアメリカに大きく依存している状況は変えられない。アメリカ以外の国と安全保障の枠組みをつくるといっても、究極的に核の傘を一体誰が出してくれるかというと、アメリカしかない。その辺りの現実も踏まえた議論が必要になってくるのではないかと思う。

結局、今のトランプ政権やMAGAの影響力がアメリカで強まるとすれば、アメリカにとって同盟国としての価値があるのかないのかが判断されることになる。従って、日本が極めて重要な価値を提供している国だと思わせることが、戦略的自律性につながっていく。特にトランプ政権は経済的な実利を重んじるので、日本の価値にどうつながってくるのかということを、議論する必要があるだろうと思っている。

隣国ともめ事起こしていていいのか

三牧 われわれが80年間ほど前提としてきた世界秩序に積極的に関与し、同盟国には刃を向けない。このアメリカが少なくとも今までのように自明ではない。イラン戦争でこれだけ同盟国との関係を悪化させているアメリカを見た後では、確かにノスタルジーに浸っている場合ではない。

ホルムズ海峡の封鎖で、日本はアメリカからいろいろエネルギーを買った。かなり高額だったと思うが、究極的にはアメリカだけでは代替できない。われわれ島国で、エネルギーやさまざまなものを、世界に依存している国が語る自律とは、一体どういうことなのか。

アメリカとの関係は非常に重要だが、他国との関係、とりわけ中国との関係は、残念ながら改善の糸口すらない。アジア太平洋経済協力会議(APEC)とかいろんな国際会議でも、首脳会談は難しいのではないかという話も聞こえてくる。トランプ政権が東アジアも含めて秩序に関心を持たない時代に、隣国ともめ事を起こして、それを解決できないというのは、トランプ時代の外交の在り方としては適切でない。

隣国とは関係を良くして、アメリカに出てきてもらわなきゃいけないような機会を減らすというのも、トランプ時代のサバイバル戦略ではないかと思うので、この点はぜひ追求していくべきところだと思う。

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