新聞不信層に根を下ろす反民主主義的世論 ──アメリカの評判を落としたトランプ政権
第12回「諸外国における対日メディア世論調査」

ここ数年、地球上では大きな紛争、戦争が続発している。中でも、アメリカの第2次トランプ政権の施策と行動は、世界情勢の不安定化に大きな影響を及ぼしている。各国の人々にとって国際と名の付く紛争、問題の発生源は遠かったとしても、その影響は甚大となり得る。国際報道を中心的に担うマス・メディアの役割は、重要性を増しているはずである。

その一方で、インターネットの普及とSNS利用の増加に応じ、旧来のマス・メディアの報道への接触を弱め、忌避するような人々も増えている。本誌1月号の拙稿で示したように、日本においてもSNSを強く肯定しマス・メディアを否定的に見る層はトランプ米大統領を好意的に捉えるなど、報道により醸成される世間一般の認識とは異なる、言わば〝非正統〟的な意見、認識を示す傾向にあった。同様の傾向は、本誌2024年5月号の拙稿「ガザ紛争に関する認識に見られる欧米の世代間格差──SNSでのニュース視聴と関係する〝非正統〟な価値観」で見たように世界各国でも確認された。

第12回を迎えた「諸外国における対日メディア世論調査」では、混乱した世界情勢を踏まえ、アメリカのトランプ政権を念頭に現代の民主主義に関わる質問を含めた。そこで今回は、トランプ政権とアメリカへの認識などの各国の人々の政治意識と、マス・メディアとの関係について分析していきたい。

イラン、中国、北朝鮮と競いアメリカが「世界平和の脅威」に

国際環境が大きく揺れ動けば、これに対する人々の意識、世論も大きく変わる。前月号の新聞通信調査会による記事では、「世界平和への最大の脅威となっている国」として「アメリカ」を挙げた割合が23年調査に比べて各国で伸びていることが報告された。23年調査は11月から12月にかけて行われているが、これは直前の10月にハマスとイスラエルによる紛争が発生したというタイミングであった。

図表1 各国における「世界平和への最大の脅威」となっている国の選択割合の変化

図表1は、23年と25年の調査で比較可能な5カ国について、「世界平和への最大の脅威となっている国」の選択割合とその変化を示している。統計的に有意な差があった個所を見ると、アメリカの選択割合はイギリスを除く4カ国で明確に上昇していることが分かる。この反面、イラン、中国、北朝鮮の選択割合が多くの国で減少している。この設問は択一であり、アメリカを選択すれば他国を選択できなくなるため、これは当然の傾向と言える。第2次トランプ政権が敵視した各国に対する脅威認識が逆に各国で低下しているのは皮肉のように見える。しかし、同政権の悪辣(あくらつ)な所業を見れば当然の結果と言うべきだろう。

このほか注目される点としては、韓国で中国の割合が高まり、日本と北朝鮮の割合が低下していることが挙げられる。黄海などで中国が度重なる挑発的行為を行い、韓中関係が悪化した影響と考えられる。フランスでロシアの選択割合が急増したのは、同国を念頭に志願制の兵役制度が導入された影響と考えられる。アメリカでウクライナの選択割合が伸びているのは、ロシアに宥和(ゆうわ)的な「解決」を迫るトランプ政権による執拗(しつよう)なウクライナ非難の影響が出ていると考えられる。

好感度が全面的に低下したアメリカ

アメリカに対する各国の人々の認識の変化は、国に対する好感度という単純な印象にも表れている。

図表2 各国のアメリカ好感度分布(2024年、2025年比較)


図表2は、24年、25年調査での各国のアメリカに対する好感度の分布を示している。これを見ると、左の「とても好感が持てる」の側ではタイを除き小幅な変動となっている一方、右側の「あまり好感が持てない」、「まったく好感が持てない」の割合(以下、これを合計した値を嫌悪割合とする)がロシア以外の各国で伸びていることが分かる。

このような印象の悪化は、今回調査した国々に関してはアメリカにのみ顕著に見られる。

図表3 各国の嫌悪割合の変化(2023年、2025年比較)

図表3は、比較可能な5つの調査国の各対象国に対する嫌悪割合の23年の値を横軸、25年の値を縦軸として散布したものである。この図の見方を簡単に説明すると、たとえば右上にある5つの緑色の◇のマークは、右上から順にアメリカ、イギリス、韓国、フランス、タイの各国でのロシアに対する嫌悪割合を示す。横軸が23年、縦軸が25年の嫌悪割合となる。マークが煩雑になるので調査国によるマークの区別は行っていないが、本文で言及するところを中心に一部に調査国の頭文字を付した。また、自国に対する嫌悪割合は黄色地として区別している。

この図を見ると、多くのマークは23年と25年の嫌悪割合が同一であることを示すy=xの斜線よりも右下に位置していることが分かる。特に、日本、韓国、中国、タイのアジア各国に対する嫌悪割合は概ねy=xの右下に位置しており、23年に比べて25年にはこれら各国の嫌悪割合が低下したことが分かる。中でも報告された韓国での日本の嫌悪割合の低下は顕著である(注1)。これは最後に取り上げたい。

このように比較的多くのマークがy=xの右下に位置する中で、アメリカの印は全て左上に位置している点で特異である。つまり、比較可能な5カ国すべてでこの2年間でアメリカの嫌悪割合は上昇している。特にフランスでは29.5%から45.5%へとアメリカ嫌悪割合は急増しており、イギリス、韓国、タイでも5㌽を超える上昇が見られる。そしてアメリカ国内でも自国を嫌悪する割合が12.7%から17.8%へと上昇している。

アメリカ嫌悪を広めたトランプ政権

アメリカに対する嫌悪が広まっていることにトランプ政権が関わっていることは容易に想像がつく。

図表4 トランプ評価別アメリカ好感度分布

図表4は、トランプが世界に良い影響を与えているか、それとも悪い影響を与えているかという人々の印象により、アメリカの好感度が大きく異なっていることを示している。

前号記事で報告されたように、今回調査した国ではいずれもトランプを悪影響とする割合はかなり高かった。国際報道上も、ここ1、2年でアメリカの悪印象を強めた出来事の多くがトランプ政権由来であると考えられることから、トランプ政権がアメリカの好感度悪化の明確な要因であると考えられる。

ただし、アメリカが嫌いだからトランプも悪影響だとする逆の因果関係も図表4の傾向には含まれる。つまり、図表4はトランプが米好感度悪化の強い根拠ではない。調査の特性上、トランプ→米好感度悪化の因果関係を直接的に示す分析を行うことは難しいが、幾つかのデータからこの因果関係の存在を明確にしておきたい。

図表5 新聞読者層と非読層のアメリカへの好感度の変化

図表5は、新聞を読んでいるか否かで回答者を分け、2023年と25年のアメリカへの好感度の分布を示したものである(注2)。これを見ると、非読層に比べて読者層の方が、アメリカへの好感度の悪化の度合いが強いことが分かる。これは、国際報道(アメリカでは国内報道含む)やその論評を担うマス・メディアへの接触が、アメリカへの好感度に影響を及ぼしたためと考えられる。

図表6 新聞読者層と非読層のトランプ評価

図表6は、新聞を読んでいるか否かで回答者を分け、両者のトランプ評価を比較したものである。これを見ると、概ね新聞読者層は非読層に比べてトランプが世界に悪影響をもたらすと評価する傾向にあることが分かる。韓国のみ読者層のトランプ評価が高いが、これは図表6に示される同国新聞読者層のアメリカ好感度の高さで説明できる。つまり、韓国の新聞読者層は非読層に比べて親米傾向が強いため、トランプに対する評価も高めになるのである。

これらの傾向からは、国際報道やその論評を通して各国の人々はトランプに批判的な意識を持つようになり、結果、アメリカへの嫌悪も徐々に強まったと考えることができる。25年調査はアメリカとイスラエルによるイランへの攻撃とその後の世界経済の混乱の前であるので、今後、さらにアメリカに対する嫌悪感は強まっていくと予想される。

新聞を信頼しない層ほどトランプを評価

マス・メディアによる国際報道がトランプの不評やアメリカへの嫌悪に関係している一方、これに接しない層、あるいは忌避する層は、異なる傾向を見せると予想できる。本誌1月号の拙稿「マス・メディア報道の外側に集まるSNS時代の世論」では、マス・メディアに比較してSNSを評価するような層で顕著にトランプ評価が高いことを報告した。同様のことが各国でも確認されるはずである。今回の調査では日本の「メディアに関する全国世論調査」と同じ質問は採用されていないが、これと強く関係する新聞信頼得点の質問は各国共通であるので、これを見ておきたい(注3)。

図表7 各国の新聞信頼得点の分布

図表7は、各国の新聞信頼得点の分布を示したものである。アメリカ、フランス、韓国が似たような分布となる中、イギリスでは24点以下の新聞不信層の割合がかなり高いことが目に付く。これは、同国特有のタブロイド紙の影響と予想される。日本は他国に比べれば新聞が信頼される傾向が強く、新聞読者層が僅少のタイでは不信層もかなり少なくなっている。

図表8 新聞信頼得点別トランプ高評価割合

図表8は、各国の新聞信頼得点ごとにトランプを「世界に良い影響を与えている」とした割合を示している。この図からは、たとえば日本の新聞信頼得点24以下の層では、10.4%がトランプを「世界に良い影響」としており、他のグループよりも著しく高い割合となっていることが分かる(調査全体では2.1%)。他国でも同様の傾向が見られ、特にアメリカではその傾向が強い(注4)。

図表9 新聞信頼得点別トランプ的指導者待望割合

図表9は、トランプのような人を「自国の指導者になってほしい」とした割合を示している(注5)。この図からは、各国とも新聞不信層ではトランプ的指導者を待望する声が強い傾向が見て取れる。

マス・メディア不信と相関する反民主主義的な政治意識

このように、日本以外の国でも伝統的なマス・メディアに対する不信、忌避感と、トランプの評価は関係している。それだけでなく、他の政治意識に関する質問への回答も、新聞信頼得点とよく相関している。図表8、9の傾向の検証も兼ねて、ここでは相関係数を示しておきたい(注6)。

図表10 政治意識質問と新聞信頼得点との相関関係

図表10は、新聞信頼得点と各政治意識質問との相関係数の値を示している。「代議制民主主義」の質問文は「あなたは、国民が選んだ代表者が法律を作る代議制民主主義についてどう思いますか」、「外国人増加」の質問文は「あなたは国内に、外国人が増えることについてどう思いますか」であり、選択肢は表中に示したものに「どちらかと言えば」を付した2択を含めた4択である。

相関係数が正の数字であれば、新聞信頼得点が高ければ各回答の数値が大きいということを示す。たとえば、「トランプ的指導者」のアメリカの値0.362は新聞信頼得点が高いほどトランプ的指導者を望んでいないということを示す。フランスのトランプ評価を除き、全てのセルが統計的に有意であった。

この表からは、新聞信頼得点が低いほど代議制民主主義を「悪いものだ」と評価し、外国人の増加を「悪いことだ」とし、トランプ大統領を「世界に良い影響を与えている」とし、トランプ大統領のような人に自国の指導者に「なってほしい」とする傾向が、どの国でも概ね確認される。こうした傾向は年齢などを交絡因子としたいわゆる疑似相関の疑いもあるが、別途回帰分析により確認しても各政治意識と新聞信頼得点や新聞閲読との相関が確認された(注7)。

これらの傾向を一般化すると、新聞のような旧来のマス・メディアに対して不信を抱く層では、反民主主義的もしくは反自由主義的な政治意識が強く、権威主義的な政治への評価や待望が強い、となる。これは現代の民主主義国家におけるマス・メディアの役割の重要性を示すものである。しかし同時に、近年のマス・メディアの退潮傾向とSNSなどからの低質、悪質な情報の氾濫がわれわれの社会に危機をもたらすと予見させるものでもある。トランプ評価の傾向から、これは日本も例外ではない。

韓国の新聞不信層で上昇した日本の好感度

こうしたデータからは、マス・メディア不信層が社会を悪い方向に導いていると認識されるかもしれない。しかし、それは一面的な見方である。前月号の記事で報告された、韓国における日本の好感度の上昇は良い議論の材料を提供する。

図表11 日本の好感度(韓国、年齢層別)

図表11は、韓国における2023年と2025年の日本の好感度分布を年齢層別に集計したものである。「とても好感が持てる」、「やや好感が持てる」を合わせた割合で見ると、36.6%から63.5%となった30歳代の上昇幅が最も大きく、次いで40歳代の上昇が目立つ。30歳未満の層はもともと日本への好感度が高いことから、上昇幅はほどほどである。この図からは、30歳代、40歳代を中心に概ね50歳代以下で日本の好感度が上昇したと言える。

図表12 日本の好感度(韓国、新聞信頼)

一方、図表12は横軸を新聞信頼得点としたものである。これを見ると、韓国で日本の好感度が上昇した中心層は、新聞信頼得点が低い層だということが分かる。特に得点が24点以下の最下層では、「とても好感が持てる」、「やや好感が持てる」を合わせた割合が23年では15・4%にすぎなかったものが、25年には60・7%と上昇している。このような激増は図表11の各年齢層では見られない。また、新聞信頼得点が低くなるほど上昇幅が大きくなるという傾向も明確である。

図表13 日本の好感度(韓国、年齢層・新聞信頼得点別)

これらからは、新聞への信頼の程度が、年齢とは独立に日本に対する好感度と相関していると予想される。そこで新聞信頼度により回答者を2グループに分け、年齢層ごとの日本への好感度とその変化を確認したところ、新聞信頼層では小幅な変化に留まる一方、新聞不信層では大きな変化が確認された(図表13)(注8)。なお、新聞読者層と非読層、SNS視聴層と非視聴層でも近い傾向が確認された(注9)。

韓国の大手紙は保守派が強いことから、新聞不信層は進歩(革新)派と重なる部分が大きいと考えられる。したがって、日本の好感度の大きな改善は、進歩派の大統領の下で日本との関係が良化したことが背景にあると考えられる。25年調査の直前には日韓首脳会談が行われ、良好な関係を双方ともアピールした。

このような韓国特殊の事情はあるにせよ、新聞という既存マス・メディアと距離があり、SNSなどで報道や情報に接するような層の世論が日韓関係にとって良い方向に動いたという事実は重要である。SNSなどの非マス・メディア経路の情報流通とその世論への影響について悪い側面ばかりが取り沙汰されるが、だからといってそれが世論に悪い影響のみをもたらすわけではないことを示すからである。

マス・メディアから距離を置いた人々に対し、メディアがどのようにアプローチすれば反民主主義的、反自由主義的な世論の台頭を抑えられるかは、今回の調査から明確に論じることは難しい。ただ今や不安定な世界情勢が各国の国内世論を動揺させる時代に入っている。そういうときこそ、世論に対するマス・メディアの責任はより重くなることをわれわれはよく知っている。今回の分析結果が、そうした思索の役に立てれば幸いである。

※その他の調査結果については新聞通信調査会のホームページを参照されたい。

(https://www.chosakai.gr.jp/)

(注1)アジア各国の嫌悪割合低下傾向の例外として、韓国ではタイの嫌悪割合が急増したことが挙げられる。反面、タイでは韓国の嫌悪割合が低下しており、矛盾した動きが見られる。これらは、両国間の嫌悪感情が広がったタイミングが異なることによると思われる。23年秋ごろに、韓国の入国審査厳格化によるタイ人観光客の入国拒否などがタイで問題化し、韓国への反発が広まったが、これが韓国に伝わり広く問題視されるようになり、タイ嫌悪の拡大に至ったのは24年に入ってからと考えられる。

(注2)質問文(邦文)は「あなたは、ふだんニュースをどの媒体で視聴していますか。あてはまるものすべてに○をつけてください。」である。「新聞(紙面)」、「新聞(電子版、オンライン)」を選択した回答者を新聞読者、それ以外は非読者とした。タイは新聞読者層が非常に少ないため、分析から除外している。

(注3)海外調査での新聞信頼得点の質問文(邦文)は「それでは、現在のあなたの日常生活において、新聞の情報をどの程度信頼しているか、点数でお答えください。全面的に信頼している場合は100点、全く信頼していない場合は0点とし、普通の場合を50点としてお答えください。「新聞を読まない」あるいは「分からない」場合でも、大体の感じでお答えください」である。日本調査の質問文は本誌1月号の拙稿参照。無回答は集計から除外した。

(注4)イギリスでは新聞を高く評価している層でもトランプを「世界に良い影響」としている割合が高くなっている。これは、この層が親米的であることや、いわゆるタブロイド紙の影響も考えられるが、確定的なことは言えない。また、フランスでは他国に比べ両者の関係は弱い。これは新聞不信層でも反トランプ感情が広まっているためと想像される。

(注5)質問文(邦文)は「あなたは、米国のトランプ大統領のような人に、自国の指導者になってほしいと思いますか」である。選択肢は「なってほしいと思う」、「なってほしいと思わない」に「どちらかと言えば」を付したものを合わせた4択である。

(注6)扱う変数が順序尺度であることから一般的なピアソンの積率相関係数ではなくポリコリック相関係数を用いている。

(注7)順序尺度を従属変数とする場合の手法、順序ロジスティック回帰分析を用いた。従属変数は図表10の4種とし、独立変数は新聞信頼得点、新聞読者か否か、SNSでニュースを見るか否か、年齢、性別とした。新聞信頼得点の係数はアメリカでの代議制民主主義とフランスでのトランプ評価で統計的に有意(p<0.05)とならなかったが、両者とも新聞を読むか否かは統計的に有意であった。

(注8)新聞信頼得点を5分類として年齢層で分けると、該当者数が10人以下になる場合がある。このため新聞信頼得点を2分類とし、年齢ごとの該当者数が40以上となるようにした。

(注9)日本への好感度(とても+やや)の上昇幅は、新聞読者層4.4㌽に対して非読層は15.0㌽、SNS視聴層20.5㌽に対して非視聴層8.1㌽であった。

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